オスマン帝国史料解題

1300年頃アナトリア(小アジア)の一隅に生まれた小国家に起源をもつオスマン帝国は、南東ヨーロッパ、西アジア、そして北アフリカにまたがる広大な領土を有し、1922年に滅びるまで存続しました。このオスマン帝国が、イスラーム史上のみならず、世界史的に見てもきわめて重要な存在であることは言うまでもありません。オスマン帝国の歴史は、トルコを始めオスマン帝国の他の後継諸国だけではなく多数の国々で、世界が共有する過去として関心が寄せられ、研究がなされてきました。日本においても1970年代から高い水準の研究が行われるようになり、現在では国際的なオスマン史学界の中でも日本の研究は重要な地位を占めています。

さて、この「オスマン帝国史料解題」は、オスマン帝国史を研究するためにはどのような史料があるのかを紹介するものです。歴史学において、研究対象と同時代の状況を語る史料の存在が欠かせないことは言うまでもありません。さいわいにして、オスマン帝国については豊富な史料が残されています。その種類と数量の豊かさは、他の歴史的イスラーム諸王朝とは比較にならないほどです。もちろん、史料が多いということは、それだけで研究が容易であることを意味しません。むしろ、史料の大海の中で行く先を見失ってしまうこともしばしばあります。また、これまで多数の研究者が用いてきた史料であっても、新しい角度から読み直すことで斬新な成果を上げることも可能です。いずれにしても、研究を始めるには、オスマン帝国史に関してどのような種類の史料が利用可能なのか、それらから何が知ることができるか、といった基礎的な情報が不可欠であり、本企画は何よりもそのような知識を提供し、一次史料に基づくオスマン史研究の方法、そして、その成果と潜在力について紹介することを計画しています。オスマン帝国史の史料状況をコンパクトに紹介するものとしては、日本語では1984年に刊行された同朋舎出版『アジア歴史研究入門』第4巻(「トルコ」の章、濱田正美著)があり、確かに今でも有用性を失っていませんが、近年の史料をめぐる環境の変化と研究の発展は著しく、それらをふまえた史料案内の必要性が強く感じられてきました。そこで、この「解題」は、とくにオスマン史研究にこれから本格的に取り組もうという大学院生や、オスマン帝国に関心のある他地域・他時代の歴史の専門家などの方々に役立てていただこうと、オスマン史研究の専門家が集まって、新たに作成したものです。ここでは、さまざまなジャンルのオスマン帝国史料について、類型ごとに解説と紹介を加えています。

本企画では叙述史料、文書史料、法令、刊行史料等、できるだけ多くのジャンルの史料を網羅することを目標としています。第一弾として2012年3月末に10項目を公開しましたが、その後は一年に3回程度のペースで更新し、項目を増やしていく予定です。ご期待ください。(2012年8月第1回更新)

  1. 総論
  2. 枢機勅令簿
  3. カーヌーンナーメ
  4. シャリーア法廷台帳
  5. 勅旨
  6. 修史官年代記
  7. 地理書
  8. 法令集Düstur
  9. 新聞(1870年代まで)
  10. 雑誌(青年トルコ革命以前)
  11. カラマン語史料
  12. 官報
  13. 年鑑
  14. 人口調査台帳
  15. 履歴文書
  16. オスマン詩
  17. 遺産目録
  18. エヴリヤ・チェレビ『旅行記』
  19. 諷刺雑誌と諷刺画
  20. アルメニア文字の定期刊行物(1870年代まで)
  21. 租税台帳
  22. ファトワー