三浦徹「地域研究と比較史:イスラームの都市社会」(講演原稿とスライド)
同時に、それぞれの段階では、人びとは、軍人の支配であれ、ヤクザの支配であれ、よりましな支配者を選びました。イスラームの統治理念である、アドルとズルムは、その意味で正義を相対的なものとみています。それは、2001年の米国同時多発テロ事件後、ブッシュ大統領が提唱した「テロか自由か」どちらに立つのかという二者択一の「絶対的正義」の考え方の対極にあるものです。個人を単位としたタテヨコナナメのネットワークは、状況におうじて柔軟に作り変えていくことができますが、ヨーロッパの近代国家のように一致団結した強固な組織には力では対抗できず、敗れていくことになります。他方、2011年のエジプト革命にみられたSNSのネットワークは、イスラームの都市社会に内在した「人びとの秩序」の再生とみることができるでしょう。
サーリヒーヤというひとつの街区の歴史研究から、イスラームの都市社会というモデルをつくってみたわけですが、このモデルが、トルコやイランや中央アジアなどの分析に適用できるのかどうか、それはまだわかりません。ただ、今日限られた時間のなかで、大変な無理をして、具体的な事実から一般的なモデルを示そうとした理由は、これからの、グローバル化時代の地域研究は(の存立理由は)、世界のさまざまな地域で起こっている事象を、地域をこえて、互いに理解しあう装置(パラダイム)をつくり、共有することにあると考えるからです。
ご清聴をありがとうございました。
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(2016年4月16日更新)