第14回中央アジア古文書研究セミナー(2016/3/13)報告

科研費「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」(基盤研究(B)・堀川徹代表)とNIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点の共催により、第14回「中央アジア古文書研究セミナー」を開催しました。

日時: 2016年3月13日(日):11:00~20:30
場所: 京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)

【プログラム】
11:00-11:15 趣旨説明(堀川)、参加者自己紹介
11:15-12:45 矢島洋一氏(奈良女子大学研究院人文科学系・准教授)
「19世紀フェルガナの請願状」①
12:45-13:30 昼食
13:30-15:00 矢島洋一氏 「19世紀フェルガナの請願状」②
15:00-15:15 コーヒーブレーク
15:15-16:45 磯貝健一氏(追手門学院大学国際教養学部・教授)
「共有状態にある遺産の持分確定にかんするファトワー文書」①
16:45-17:00 休憩
17:00-18:30 磯貝健一氏 「共有状態にある遺産の持分確定にかんするファトワー文書」②
18:30-19:00 総合討論
19:15-20:30 懇談会 (京都外国語大学11号館2階)

【概要】

第14回中央アジア古文書セミナーが、2015年3月13日京都外国語大学にて開催された。本研究会は、堀川徹氏が代表を務める科学研究費基盤研究(B)「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」主催で、NIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点共催である。本研究会に、北海道から関西までさまざまな地域から31人の研究者が集まったが、中でも学部学生、修士課程学生が合わせて10人と、若手の参加者が多く見られた。セミナーでは、堀川徹氏による趣旨説明と参加者全員による自己紹介の後に、矢島洋一氏(奈良女子大学研究院人文科学系准教授)と磯貝健一氏(追手門学院大学国際教養学部教授)による古文書解説と講読が行われた。

矢島洋一氏は、19世紀フェルガナの請願状を取り上げた。講読したのは、ウズベキスタン州郷土博物館所蔵で、カーディーへの請願を内容としたペルシア語の3文書である。最初に取り上げられた文書は、不動産売却代金の不払いへの対応を要請するものであった。文書中の一つの文言を、果実(thamar)と判読し、同文書でサラム(salam: 先物売買)が言及されているという解釈に対して、同じ文言を、shode(〜になる)と判読すべきだという反論がなされ、議論となった。次に取り上げられた文書は、土地への不法侵入に対する訴訟準備のために発行されたものであった。不法侵入を行ったとされる「ナイマンの一団(jamā‘e-ye nayman)」に関連して、ナイマンを遊牧民の部族名称と捉え、同文書では遊牧民と定住民の間での紛争が言及されているという解釈と、ナイマンを地名と捉え、同文書では定住民同士の紛争が言及されているという解釈が提示された。最後に取り上げられた文書は、旅行中のサイイドに対する歓待と次の目的地への随行を、カーディーに要請するものであった。このサイイドはオスマン朝領内から来たと推測されるが、質疑ではその来訪の理由について議論が行われた。

磯貝健一氏は、ファトワー文書を取り上げつつ、共有状態にある遺産について、相続人の間でその持分を確定させる際の計算の手順を解説した。講読した文書は、サマルカンド州立博物館所蔵、フェルガナ州立博物館所蔵の2点と、国立ブハラ建築美術博物館保護区所蔵の2点である。まずサマルカンド州立博物館所蔵、国立ブハラ建築美術博物館保護区所蔵の文書2点を例として、「分割前持分相続(munāsakha)」の基本的な計算方法が、解説された。それに基づいて、フェルガナ州立博物館所蔵、国立ブハラ建築美術博物館保護区所蔵の文書2点を講読し、それぞれの事例に即して「分割前持分相続」の計算が行われた。

総合討論では、磯貝健一氏の講読課題について、遺産配分の計算式が記述されていることが文書自体の信頼度を高めるかどうか質問が出た。また、不動産の相続に関連して、土地の購入や遺産共有者の排除(takhāruj)により、土地の権利の過度な細分化が抑制されていたことが紹介された。

毎年恒例の中央アジア古文書セミナーは、大学やその他教育機関で普段扱うことのできない手書き文書の講読法を伝授する点で、中央アジアを中心とした諸地域を対象とする歴史研究の発展において、非常に重要な役割を果たしている。さらに、学部学生や修士課程の参加者も回を重ねるにつれて増加しており、本セミナーは、歴史研究を志す若手研究者の養成にも大いに貢献してきた。本セミナーの運営にあたっては、堀川徹氏、磯貝健一氏、矢島洋一氏に加えて、事務手続きを担当した磯貝真澄氏の尽力が欠かせない。各氏に深い謝意を表したい。また来年度のセミナーでは、磯貝健一氏に代わり、新たな講師を迎えることとなった。長年にわたり本セミナーの講師を務められた磯貝健一氏に改めて謝意を表すとともに、今後の中央アジア古文書セミナーの更なる発展を期待したい。

(徳永 佳晃)

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