第17回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2021/12/18)報告

第17回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、東北大学東北アジア研究センターにおけるオンサイト形式とZoomを用いたオンライン形式を併用する形で開催された。それぞれ10名、全体で20名の参加があった。各出席者の専攻が多種多様であるなかで、全体的に非常に噛み合った、中身の濃い議論がなされた。

まず、「中国民法典から見た伝統家族法理念の行方」と題する研究報告が朱曄氏によってなされた。2021年から施行されている「中国民法典」の内容や特徴、問題点をまとめたもので、特に婚姻家庭編と相続編に焦点が当てられた。朱氏は、儒教に基づく家族間の相互扶助や「夫妻一体」といった中国社会の伝統的要素の影響や社会主義体制の特色などに着目しながら、それらの結果としてあらわれる中国民法典の「不備」、あるいは日本や欧米諸国の民法との相違点を指摘した。

研究報告に続いて田口宏二朗氏によるコメントがあり、中国的な「伝統」をどのように評価するかが要点であり、これに関する分析を精緻に進めることで、現代法の実効性向上に資する成果が得られる可能性がある、との指摘がなされた。会場からは、欧米や日本、あるいはソヴィエトとの比較の視点に基づいた多くの質問が提示された。

研究会の後半には、Ulfat Abdurasulov氏によるBook Launchが行われた。紹介された書籍は、Abdurasulov氏が2020年にPaolo Sartori氏との共編著の形でBrill社から出版したSeeking Justice at the Court of the Khans of Khiva: 19th – Early 20th Centuriesである。同書は、19世紀から20世紀初頭のヒヴァ・ハン国の宮廷に上奏された嘆願書やそれに対する回答書などを収録した資料集であり、チャガタイ語で書かれた文書の写真とその校訂、英訳から構成されている。Abdurasulov氏からは、これらの文書の特徴と研究上の重要性も示された。

その後の質疑応答では、イラン史研究者からガージャール朝との比較の視点に基づいた意見や質問が多く提起されたほか、本発表のテーマであった宮廷による「裁判」といわゆる「シャリーア法廷」との関係など、法制史、あるいはイスラーム世界史全体に関わるような重要な問題が議論された。

(文責:塩野﨑信也、龍谷大学文学部・講師)

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