第16回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2021/7/3)報告

第16回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表者:磯貝健一)の助成で開催されました。その実施報告を掲載します。

2021年7月3日(土)、第16回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会がオンライン会議形式で開催され、国内各地から26名が参加した。森田豊子氏(鹿児島大学グローバルセンター)による「イラン家族保護法:成立の経緯と特徴的ないくつかの規定について」と、王天馳氏(京都大学アジア教育研究ユニット)による「17世紀マンチュリアにおける相続事情」というふたつの研究発表が行われた。

森田氏の発表は、1967年にイラン家族保護法が制定された経緯を説明したうえで、それ以降、1979年イラン革命前後の時代に行われた法改正を紹介し、各時代の家族保護法と改正法に現れた特徴的な規定について論じるものであった。今回、取り上げた規定は、婚資や一時婚、二人目の妻を娶ることに関する規定のほか、離婚時の和解不能証明書やオジュラトルメスルとよばれる「離婚後イスラーム法上の義務を負っていない家事労働に対する妻の報酬請求」に関する規定である。氏は、1967年家族保護法と1975年改正法は、革命後、ホメイニー師が「イスラームに反している」と宣言したことによってその運用を停止されたものの、廃止はされていなかったとし、その後、2007年から2013年にかけて改正運動が起き、上記規定にも変化が見られたことを指摘した。実生活上の実態については、今後の現地調査の課題である。この発表に対して、討論者の阿部尚史氏(お茶の水女子大学文教育学部)は、イランにおいて近代法制が整備された歴史的経過を概観したうえで、家族保護法制定の同時代的背景や2000年以降の法改正の事情について質問し、当時の国際環境や国内事情を考慮することが重要であると指摘した。

王氏の発表は、遼寧省檔案館所蔵『黒図檔』の文書から、17世紀後半の盛京における内務府包衣の家の相続紛争の事例を2件取り上げて、親族関係や家産の実態、訴訟内容とその手続き、事の経緯を整理し、この事例においてどのような家産分割や法制の特徴が見いだせるのかを検討するものであった。結果、通説ではマンジュ人の家産分割は末子相続、漢人の家産分割は兄弟均分とされるが、今回の事例ではそれぞれ兄弟均分と末子相続が選択され、また法適用においてはそれぞれマンジュ法と旗人向けの特別法の適用が見られた。氏は、この違いは裁判機関の介入の有無によるのではないかとして、「典型的漢人の慣習」と「典型的マンジュ人の慣習」が融合していた可能性を指摘した。これに対して、討論者の承志氏(追手門学院大学基盤教育機構)は、別の文書を紹介して今回発表した事例の続編ともいえる研究が可能であることを示唆した。また「漢人の慣習」と「マンジュ人の慣習」はどのような基準で判断するのかと問うたほか、原告と盛京佐領との関係についても質問した。

今回の会もZoomによるオンライン会議形式で行われ、ふたつの研究発表が全く異なる時代・地域・社会を対象とした研究であったこともあり、前後半で参加者に多少の入替りがあったが、従来通り歴史学や法学、文化人類学など様々な分野の研究者や法曹関係者によって活発な議論が交わされた。質疑応答と全体討論では、イラン社会でのクルアーンとイランの成文法との関係認識や多様な枠組みがありうる「家」を共通の枠組みで議論する方法など、多角的な議論が交わされ、時間を大幅に超過して盛況のうちに幕を閉じた。

 

(文責:中村朋美、日本学術振興会特別研究員RPD(京都大学))

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