第21回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2023/12/9~10)報告

第21回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、科研費(基盤研究(B))「ロシア帝国領中央ユーラシアにおける家族と家産継承」(研究代表者:磯貝健一)、科研費(基盤研究(B))「中東における協働・共有の法制と実態:組合と財産共有」(研究代表者:大河原知樹)により開催されました。その実施報告を掲載します。

 

【概要】

2023年12月9日・10日、第21回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、JR静岡駅ビル・パルシェ会議室において、Zoomを利用してオンラインでも参加できるかたちで開催された。対面での参加者13名、オンライン参加者8名だった。前半は「トルキスタン統治規程研究会」であり、後半には大河原知樹氏(東北大学大学院国際文化研究科)による研究報告が行われた。

「トルキスタン統治規程研究会」では、第12条から第16条の検討が行われた。まだ法文翻訳の初期段階のため、訳語の検討に多くの時間が必要である。

大河原知樹氏の研究報告「家族復元とシャリーア法廷史料:ダマスカスのKh.スルージー家の事例」は、大河原氏が25年以上前から続けているダマスカスのシャリーア法廷史料の調査・分析と聞き取り調査をもとに、Kh.スルージー家の「家族復元」を行おうとするものだった。ただし、後述する討論者からの指摘にもあるように、大河原氏の言う「家族復元」は、家名追跡や男性で構成される家系図の作成、およびその男性たちの職業の追跡である。大河原氏はまず、家族復元研究の歴史として、ヨーロッパの村落研究と歴史人口学の研究史に触れ、中東研究では少数の例外を除くとおおむね都市研究や都市の名望家研究が行われてきたことを指摘した。そのなかで氏の研究は、歴史書や人名録などに現れない家族の「復元」を行う点で意義があるとした。そして、18世紀前半にダマスカスのスルージー廟の廟守職とワクフ管理権を得て以降展開した家系の歴史を、シャリーア法廷史料と、1990年代末~2010年代末に断続的に行った聞き取り調査から明らかにした。大河原氏は結論で、Kh.スルージー家が廟守やワクフ管財人、モスクの管財人などの職を中心とする利権を得て拡大した、タリーカ(イスラーム神秘主義教団)にかかわる家系だったことを述べた。

討論者でロシア史研究が専門の畠山禎氏(北里大学)は、ロシア家族史研究の動向を紹介しながら、中東史の場合はどのような史料が利用可能なのか、またこれまでの歴史人口学的な研究成果と今回の「家族復元」の関係はどのようなものかを問い、また大河原氏が示した史料に女性が現れていることを指摘した。討論者の竹村和朗氏(高千穂大学)は、エジプトについての先行研究を紹介しながら、家名を追うことが果たして家族の存在と継続を証明するのか、という鋭い問題提起を行った。あわせて、大河原氏の家名追跡作業における家父長中心性を指摘した。両討論者とも大河原氏の作業を「家族復元」という言葉で言い表すが適切かどうかという問いを投げたが、それももっともなものである。中東史研究には、法廷記録に女性がしばしば現れることを踏まえた法社会史、家族社会史的研究の蓄積がある。そうした史料の特性があるうえに、聞き取り調査もあわせるならば、今後は女性が書き込まれた家系図ができてゆくのを期待したい。

研究打ち合わせ会議には科研費の分担者やその他の研究者が参加し、今後の研究企画について意見交換と情報共有を行った。

(文責:磯貝真澄・千葉大学大学院人文科学研究院)

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