第20回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2023/6/24~25)報告

第20回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、科研費(基盤研究(B))「ロシア帝国領中央ユーラシアにおける家族と家産継承」(研究代表:磯貝健一)により開催されました。その実施報告を掲載します。

【概要】

2023年6月24日・25日、第20回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、京都大学文学研究科附属文化遺産学・人文知連携センター(羽田記念館)における対面ならびにZoomによるオンラインのハイブリッド形式で開催された。対面での参加者15名に加え、オンラインでは9名、合計24名が参加した。前半には「トルキスタン統治規程研究会」、後半は出川英里氏(千葉大学大学院人文公共学府博士後期課程)による研究報告が行われた。

前半の「トルキスタン統治規程研究会」では、第6条から第11条にかけての検討が行われた。翻訳作業の最初の段階であるため、とくに訳語の確定に多くの時間が費やされた。

後半には、出川英里氏による研究報告「19世紀後半のエジプト混合裁判所における法の運用:差押えられた財産の返還請求訴訟を事例として」が行われた。報告では、エジプトで19世紀後半から20世紀半ばまで存続した裁判所の一つである混合裁判所における法の運用実態について、差押え財産の返還に係わる3件の訴訟が取り上げられ、訴訟の背景にあるエジプトの土地制度における「用益権」や「保有権」、「所有権」をめぐる法規定の変遷と、外国人と現地人の間に生じた係争における訴訟の争点、争点をめぐる被告・原告の主張と根拠の内容が検討された。いずれの事例においても、法令や証拠書類に基づいて差押え財産の返還請求を支持する判決が下されているが、証拠書類がつねに「所有権」の有効な根拠とはならない点が指摘された。

研究報告に続いて、討論者の堀井聡江氏(桜美林大学リベラルアーツ学群)と竹村和朗氏(高千穂大学人間科学部)よりコメントがなされた。堀江氏からは家族の共同土地保有ならびに「分割証書」の性格について、竹村氏からはサイード法の規定に基づく各事例の詳細、また「保有権」「所有権」概念の性格についてのコメントがなされた。その後の質疑応答では、近代エジプトにおける司法制度のモデルや、混合裁判所とシャリーア法廷との関係などについての質問がよせられた。

(文責:荒井悠太・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科研究員)

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