第18回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2022/7/2)報告
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第18回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「ロシア帝国領中央ユーラシアにおける家族と家産継承」および「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表:磯貝健一)の共催で開催されました。その実施報告を掲載します。
【概要】
2022年7月2日、第18回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、京都大学文学研究科付属文化遺産学・人文知連携センター(羽田記念館)での対面と、Zoomによるオンラインを併用するハイブリッド形式で開催された。対面での参加者は10名で、全体では20名ほどが参加した。中央アジア史・ロシア史・現代法学など各出席者の専攻は様々であり、多分野から積極的に意見が提出され活発な議論がなされた。
まず、「ロシア正教徒農村住民の結婚・家族と相続—ロシア帝国の結婚・家族の比較史に向けて」と題する研究報告が畠山禎氏によってなされた。報告の最初に、ロシア帝国では臣民の結婚や家族について、基本的に宗教・宗派別の機関・法令で管理していたことが説明された。次に、ロシア正教徒の場合、基本的に結婚の解消が非常に困難であり、それゆえドメスティック・ヴァイオレンスが発生した場合でも離婚できず、農村部で問題化していたことが解説された。同時に、こうした農村部での紛争を解決する機関としての郷裁判所や慣習法の作用が紹介され、両者が国家法に比べ村人の価値観に基づいて柔軟に対応していたことが指摘された。また、第一次世界大戦中の男性不在によって家庭内での女性の役割が拡大し、家産相続について寡婦が亡夫の親族との間で訴訟を起こしていた、という興味深い現象が紹介された。
研究報告に続いて、矢島洋一氏と磯貝真澄氏によってコメントがなされた。矢島氏は、シャリーア法廷へのロシア法廷の介入、ドメスティック・ヴァイオレンス容認ともとれるコーランやハディースの文言、ムスリム社会における離婚の容易さを示す法廷文書などを紹介した。磯貝氏は、まず中央ユーラシア史とロシア史との接合の困難さについてコメントした。次に、報告者の立論の資料となっていたムスリム社会についての研究論文へ疑問を提起するとともに、そうした障害を乗り越えるべく今後の共同研究への見通しを述べた。矢島氏・磯貝氏のコメントの後に、フロアからもコメントが寄せられた。畠山氏が報告したロシア中央部の事例が、シベリアに強制移住させられた人々や、日本に亡命してきたタタール人と比較された。
研究会後には、科研費による共同研究の計画と予定について打ち合わせが行なわれた。今後の研究会議と研究出張の計画について、詳細が決められた。
(2022年7月21日更新)