第19回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2022/12/17~18)報告

第19回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「ロシア帝国領中央ユーラシアにおける家族と家産継承」および「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表:磯貝健一)の共催で開催されました。その実施報告を掲載します。

【概要】

2022年12月17日(土)から18(日)にかけて、第19回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、JR静岡駅ビル内パルシェ会議室第1会議室にて対面とオンライン会議形式を併用して開催された。17日には「トルキスタン地方統治規程」研究会と阿部尚史氏(お茶の水女子大学文教育学部)による研究報告が行われた。対面での参加者が10名、オンラインでの参加者が10名であった。参加者の専門は歴史学や法学など様々な分野・地域にわたった。

前半の「トルキスタン統治地方規程」研究会は、1886年版の本規程をロシア語から日本語に翻訳することを目的とし、今回が第1回目の開催であった。はじめに、磯貝健一氏(京都大学大学院文学研究科)から、研究会の趣旨と進め方、翻訳の底本と参照する法令集について説明がなされた。その後、日本語訳案について、歴史学および法学的観点からの議論がなされつつ、確認が進められた。また、資料をウェブ上で共有するなど、対面参加者だけでなく、オンライン参加者もスムーズにコメントを寄せることができる仕組みが用いられた。

後半は、阿部尚史氏より「サファヴィー朝・カージャール朝の少数派政策:ムスリム支配下アルメニア教徒の立場の変遷」と題する研究報告がなされた。報告では、イラン王朝からアルメニア教徒に下された勅令・命令書などに基づき、特にアルメニア教徒の相続に関わる内容に着目して、両者の関係の連続性や変化が論じられた。まず、勅令によりアルメニア教徒に認められた様々な権利・恩恵は、王朝や君主が交代しても、先に下された勅令内容(=「先例」)を踏襲する形で継承されたことが指摘された。そのうえで、サファヴィー朝アッバース1世によるアルメニア教徒へのシーア派相続法適用が、アルメニア教徒のムスリムへの改宗を促進したこと、19世紀にはロシアのコーカサス進出に伴い、カージャール朝はアルメニア教徒懐柔策を展開し、その中でシーア派相続法に基づく相続規定が修正され、この相続規定改正が新たな「先例」化していったことが指摘された。

研究報告に続いて、討論者の磯貝健一氏より多民族・多宗教集団を統治するロシア帝国との比較を念頭に置いたコメントがなされた。その後の質疑応答では、オスマン帝国内のアルメニア教徒との比較や、アルメニア教徒にとって相続規定の変更は財産権利上の問題であったか、あるいは宗教共同体としての問題であったのかなど、様々な観点から質問やコメントが寄せられ、活発な議論が行われた。

翌18日には、科研費による研究の計画と予定について打ち合わせが行われた。対面で8名、オンラインで1名が参加した。

(文責:出川英里・千葉大学大学院人文公共学府博士後期課程)

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