第15回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2020/12/19)報告

第15回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表者:磯貝健一)の助成で開催されました。その実施報告を掲載します。

2020年12月19日(土)、第15回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会がオンライン会議形式で開催され、国内各地から20名が参加した。今回は、岩崎葉子氏(アジア経済研究所・開発研究センター・企業・産業研究グループ長)による「イラン・ファミリービジネスの経営と事業継承」、竹村和朗氏(高千穂大学人間科学部・准教授)による「契約書の裏に書かれた土地譲渡:現代エジプトの相続の一事例」という二つの研究発表が行われた。

岩崎氏の報告は、現地調査で得られた具体的な事例を基にイラン企業の実態を検証することによって、事業拡大が大前提となっている従来の「勝ち残る企業」研究に含まれる問題点を明らかにするものであった。イラン企業の多くは少数・小規模経営であり、経営者は自身の子供への継承よりも売却を意図している場合が多い。岩崎氏は、事業継承や大企業の形成が進まない背景について、従来の研究のように「イスラーム」的相続制度や革命後の産業政策にその要因を求めるのは正しくない、とした。さらに、大バーザールのようなプラットフォームを仲介として小規模な生産者と零細な消費者とが結び付けられている低組織化システムというイラン経済の特徴に注目すべきであり、このシステムを通じて市場や国内外の情勢の変化に柔軟に対応することが可能になる、と指摘した。

竹村氏の報告は、現代のエジプトに住むある夫婦間で行われた生前贈与による土地譲渡の事例を基に、相続における法と制度との関わりを検証するものであった。氏のインフォーマントである故人Gには、相続人としては妻と二人の息子がおり、財産としては父から相続した砂漠開拓地の自宅土地があった。本来、イスラーム法の規定に準じたエジプト相続法では卑属中に相続人がいる妻の取り分は1/8であるが、Gが生前妻に自宅土地の1/2を譲渡していたことから、最終的に妻はGの財産の9/16を所有することになった。竹村氏は今回の事例で揉め事が生じなかった背景として、Gが制定法で一部認められているもののハディースでは無効とされている「相続人への遺贈」という手段を避けたこと、経験的になじみのあった砂漠開拓地の土地所有体制の手続きという合法的な手段を通じて妻の取り分を増額させたこと、贈与の対象が自宅土地だけであったことを指摘した。

質疑応答や総合討論では、岩崎氏には企業形態に関するイランと他の中東諸国との比較や、企業が売却された場合のそれまでの顧客とのつながりに関する質問が、竹村氏には妻が贈与・相続した財産の詳細(土地なのか、建物なのか)といった質問があり、活発な議論が行われた。
今回は新型コロナウイルス感染対策のため、前回に引き続きZoomによるオンライン会議形式で行われたが、会そのものは従来通り歴史学や法学、経済学、文化人類学など様々な分野の研究者や法曹関係者が一同に会して多角的な議論が繰り広げられ、盛況のうちに幕を閉じた。また、鹿児島など遠方からの参加者も数名おり、オンライン会議形式の利点も実感することができた。

(文責:杉山雅樹・京都外国語大学非常勤講師)

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