第14回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2020/6/27)報告

第14回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表者:磯貝健一)の助成で開催されました。その実施報告を掲載します。

 

【概要】

2020年6月27日(土)、第14回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会がオンライン会議形式で開催され、国内外から26名の研究者が参加した。2名の研究者が研究報告を行い、塩野崎信也氏(龍谷大学文学部・講師)は「ロシア帝政期南東コーカサスの離婚裁判―2度結婚した後に2度離婚した未婚女性の事例―」と題して報告し、次いで井上岳彦氏(大阪教育大学多文化教育系・特任講師)は「2つの教団、2つの身分―帝政期カルムィク社会の統治構造―」と題して報告を行った。

塩野崎氏の報告は、ロシア帝政期の南東コーカサスにおける離婚裁判の一事例をアゼルバイジャン国立歴史文書館所蔵の法廷文書をもとに復元し、1870年代に当地域で採用された制度の実態、当時の社会状況、人々の生活や意識の変化などを検討するものであった。氏は、ある一組の年若い夫婦の2年に及んだ訴訟について、事件の経緯、「調停会議」と「第1審」、「第2審」それぞれの経過と争点、訴訟に関わった人物の行動を詳細に追って整理し、2度の婚姻契約と2度の離婚契約という奇妙な事例から抽出した事実をもとに、裁判と調停に対する関係者の対応、当社会における法廷の意味、ロシア統治下で導入された新制度に対する人々の反応などを検討した。氏自身が幾度となく参加者に疑問を投げかけたように(その疑問の幾点かは参加者からの指摘で解明の糸口が見えた)、解明するべき点は多く、またその考察が一般的と言えるのか今後の検証が必要であるが、報告からはロシアの統治とイランの影響が混じる地で暮らす人々が新たな司法制度を利用して生きる姿がうかがえた。

井上氏の報告は、多民族多宗教国家であったロシア帝国領内の他の集団に関する法制度について知見を広めようと、研究会主催者が井上氏を招待して実現した。氏は、主催者側が提案した2つのテーマ、①ロシア帝国の統治制度とチベット仏教徒集団、②ロシア帝国の統治制度とコサック身分(カザーク身分)集団にそって報告を行い、ロシア帝国におけるカルムィク統治はどのように進行したのか、ロシア政府はカルムィク仏教集団をどのように扱ってきたのかを、17世紀から20世紀初頭にわたって検討した。同じチベット仏教徒であったカルムィクとブリヤートに対する扱いの違い、ドン・カルムィク教団とヴォルガ・カルムィク教団の違い、異族人身分とコサック身分に対する扱いの違いのほか、19世紀半ば以降にカルムィク首領層がどのような生存戦略をとったのかを検討し、その一例として、ある首領がダライラマに宛てた書簡を紹介した。

今回の研究会は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、会議アプリケーションZoomを利用したオンライン会議形式で行われた。そのため、日本国内各地からだけではなく、中国の大学に勤める研究者やヨーロッパ留学中の大学院生など国外からの参加もあり、例年より多くの参加者が集まった。例年以上に多様な分野の、それも各地に住む研究者・専門家が一堂に会する場となったのは、オンライン会議形式の賜物である。研究報告も活発な発言も滞りなく拝聴でき、充実した時間となった。ただ1点、気になった点をあげるとすれば、大多数の参加者のビデオがオフであったことで、報告者や司会から発言者以外の参加者の顔が見えなかったことである。プライバシーやネット環境の問題があるため難しいところではあるが、報告者にとっては報告中に聴衆の反応がわからず、やりにくさを感じたのではないかという印象を受けた。

(文責:中村朋美、日本学術振興会特別研究員RPD(関西大学))

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