第12回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2019/7/6)報告

第12回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表者:磯貝健一)の助成で開催されました。その実施報告を掲載します。

【概要】

2019年7月6日(土)、京都大学文学研究科附属羽田記念館(京都市)で、第12回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が開催され、国内から17名の研究者が参加した。研究報告は、矢島洋一氏(奈良女子大学・准教授)による「トルキスタン地方のロシア法廷におけるムスリム家族関係訴訟」と、大河原知樹氏(東北大学・教授)による「16世紀のオスマン帝国と婚姻許可状」が行われた。

矢島氏の報告では、ロシア統治期(1867〜1917年)の中央アジアにおけるイスラーム法とロシア法の関係性に注目し、両者の関係性を示唆する具体例として、ムスリム家族関係訴訟が取り上げられた。ロシア統治期の中央アジアでは、トルキスタン地方統治規定が制定された1886年以降、ロシア統治への反抗や重大犯罪はロシア法廷へ、結婚・離婚・遺産相続などに関するムスリム家族間での訴訟は伝統的なイスラーム法廷(民衆法廷)に持ち込まれた。しかしながら、ムスリム家族間での案件であっても、(1)家族関係を扱った民衆法廷の判決に異議申し立てを行う場合や、(2)家族間殺人などの重大犯罪といった場合はロシア法廷に案件が持ち込まれていた。今回の報告では、(1)のケースについては3件、(2)のケースについては2件の事例が実際の文書の訳文とともに紹介された。

大河原氏の報告は、16世紀以降のオスマン朝治下のシリアにおける婚姻に関する司法制度と婚姻許可をめぐる問題を取り上げた。まずはじめに、16世紀以前のシリアでの婚姻を概観し、また、オスマン朝での婚姻で新たに適用された婚姻税をめぐる問題が紹介された。この婚姻税はトルコ的な慣習法・行政法であり、シャリーアでの規定と相容れない性格のものであった。その後、16世紀にオスマン朝で新たに導入されたイスラーム法廷による婚姻許可とその手数料の徴収という問題が考察された。この婚姻許可とその手数料の合法性に関しては、法学者間での論争を巻き起こし、特にシリアではムフティーへの暴行致死にまで発展したという。この問題と関連して、氏は今回得られた新たな知見のもと、自身が公表済みの論考に若干の修正が必要だという見通しを述べた。

両報告ならびに総合討論では、活発に質疑応答が行われた。一例を挙げると、矢島氏に対しては、ロシア法廷へのプロテストが棄却され、刑罰に従わなかった場合の処置やその際の管轄についての質問があった。大河原氏に対しては、カーディーらが手数料を徴収する場合、その行為は国家の管理下にあるのか否かについて質問があった。

翌7月7日(日)には、科研費による共同研究の計画と予定について打ち合わせが行なわれた。今後の研究会議と研究出張の計画について、詳細が決められた。

(文責:角田哲朗)

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