第17回中央アジア古文書研究セミナー(2019/3/16~17)報告

第17回「中央アジア古文書研究セミナー」を、下記の要領で開催いたしました。

日時: 2019年3月16・17日(土・日)  16日(土)14:00~17:30  17日(日)11:00~16:00
場所: 奈良女子大学 文学系S棟1階 S128教室
※会場アクセス:奈良市北魚屋西町(〒630-8506)http://www.nara-wu.ac.jp/nwu/intro/access/map/index.html

【プログラム】 司会:磯貝健一(追手門学院大学国際教養学部)

3月16日(土)
14:00~14:15 参加者自己紹介
14:15~15:45 矢島洋一(奈良女子大学人文科学系)
「中央アジアのカーディー印」
15:55~16:45 磯貝真澄(京都外国語大学外国語学部)
「19世紀末~20世紀初頭中央アジアのワクフ関連文書」(1)
16:45~17:30 質疑応答
※18:00~ 懇談会
3月17日(日)
11:00~12:00 磯貝真澄「19世紀末~20世紀初頭中央アジアのワクフ関連文書」(2)
12:00~13:00 ランチ
13:00~15:00 杉山雅樹(京都外国語大学国際言語平和研究所)
「サマルカンドのファトワー文書」
15:15~16:00 質疑応答・総合討論

【報告】

第17回中央アジア古文書研究セミナーは、2019年3月16日~17日に開催された。本年度は、磯貝健一氏が代表を務める科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」の主催であり、奈良女子大学において行われた点が昨年までとの変更点であった。参加者は24名である。セミナーでは、磯貝健一氏による趣旨説明と参加者全員による自己紹介の後に、矢島洋一氏(奈良女子大学人文科学系)・磯貝真澄氏(京都外国語大学外国語学部)・杉山雅樹氏(京都外国語大学国際言語平和研究所)よる古文書解説と講読が行われた。

初日には矢島洋一氏と磯貝真澄氏の講義があった。
矢島洋一氏は、中央アジア法廷文書におけるカーディー印を扱った。本セミナーで扱う法廷文書には、カーディーによる印章がつきものであるが、大抵の場合は陰影が不鮮明であって、受講生を悩ませる存在であった。今回の矢島氏の講義ではイチャン・カラ博物館(ヒヴァ)所蔵文書より6点、フェルガナ州歴史文化国立博物館所蔵文書より5点の印章を取り上げ、印の様式についての説明の後に印影の読解が試みられた。今回扱った印は比較的印影が鮮明なものから不鮮明なものまで様々であった。多くの文書に目を通して類例を把握すること・「心の目」で見ることが肝要だと矢島氏が強調されていたことが印象的であった。

磯貝真澄氏は、19世紀末~20世紀初頭における中央アジアのワクフ関連文書を取り上げた。使用した文書は、タシュケントのシャリーア法廷台帳に記録されたワクフ文書(ペルシア語)1点とイチャン・カラ博物館所蔵のワクフ文書(チャガタイ・テュルク語)1点である。はじめにワクフ文書の形式についての説明があり、その後に文書の講読が進められた。1点目の文書について、中央アジアでワクフを設定する際には、管財人を原告・ワクフ設定者を被告とする「仮想的な」裁判を行い、カーディーが管財人にワクフ設定の法的拘束力を認めるというプロセスを踏むということが確認された。この形式的な裁判はワクフ文書にも記されており、ワクフ設定の有効性を巡るハナフィー派法学説の異同のためのものである。2点目の文書については、ワクフ財の設定に際して、設定者が代理人を任じるという形式で行われたものであった。この文書を巡っては、代理人は親族が務めるのか、あるいは職業代理人が存在していたのかという点にまで議論が及んだ。なお、磯貝氏の講義は二日間にわたり行われた。

二日目は磯貝真澄氏による講義の続きと杉山雅樹氏の講義であった。
杉山雅樹氏は昨年に引き続き、離婚の訴訟に関わるファトワー文書を取り上げた。今回使用した文書は、サマルカンド州立博物館所蔵のファトワー文書2点であった。今回の講読課題に関わる「婚姻の解消」や妻に離婚請求権が発生する約定に関する解説の後に、実際の講読が行われた。1点目の文書は、殴打されて離婚請求を行った妻に対して夫がそれの無効を求めたファトワーであった。2点目の文書は、ある男性が今後兄とは仕事をしないと宣言し、その際に「もし兄と仕事をするならば、妻とは離婚する」と宣誓したが、実際に兄と再び仕事をしたので、妻との離婚を撤回したいというものであった。

総合討論では、矢島氏の講読課題について、イランにおけるカーディー印との様式の相違点に関する質問がされた。また、杉山氏の講読課題の2点目について、このような宣誓は中央アジアにおける慣行として珍しいことではなかったのか、そのようなファトワーを求める理由は何か、といった点に質疑が寄せられた。

本セミナーは、ペルシア語やチャガタイ・テュルク語の古文書の読解という極めて高度なノウハウを学ぶことが出来る殆ど唯一の場である。参加報告者自身の研究テーマはこれらの文書との直接的な関係はないが、年に一度身を引き締めて違う分野に注力することは得難い経験であり、矢島洋一氏・磯貝真澄氏・杉山雅樹氏、磯貝健一氏には改めて感謝したい。なお、今年度は学生の参加者は例年に比べて少数であった。是非とも志のある学生諸氏は講師の方々の胸を借りるつもりで古文書の世界に飛び込んで頂きたいと、一受講生として思う次第である。

(文責:角田哲朗、京都大学大学院文学研究科)

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