第15回中央アジア古文書研究セミナー(2017/3/11~12)報告

このたび、科研費「近代中央ユーラシア地域における帝国 統治の比較法制度・法社会史的研究」(基盤研究(B)・堀川徹代表)と京都外国語大学学内共同研究「ウズベキスタン共和国における博物館収蔵物と地域課題に関する実践的研究」(堀川徹代表)では、第15回中央アジア古文書研究セミナーを開催しました。

日時: 2017年3月11日(土) 13:00~17:50、3月12日(日) 10:00~14:45
場所: 京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)

【プログラム】
3月11日(土)
13:00-13:10 趣旨説明、参加者自己紹介
13:10-14:10 堀川徹(京都外国語大学外国語学部・教授)
「古文書セミナー15年」
14:15-15:45 磯貝真澄(京都外国語大学外国語学部・非常勤講師)
「ヒヴァとブハラの売買契約および「合法売買」契約の文書」①
15:45-16:00 コーヒーブレーク
16:00-17:30 磯貝真澄
「ヒヴァとブハラの売買契約および「合法売買」契約の文書」②
17:30-17:50 質疑応答
18:00-20:00 懇談会

3月12日(日)
10:00-11:30 木村暁(京都外国語大学国際言語平和研究所・嘱託研究員)
「ブハラ・アミール国とヒヴァ・ハン国の勅令」①
11:30-12:45 昼食
12:45-14:15 木村暁
「ブハラ・アミール国とヒヴァ・ハン国の勅令」②
14:15-14:45 質疑応答・総合討論

【報告文】

2017年3月11日と12日の二日間にわたり、京都外国語大学にて中央アジア古文書セミナーが開催された。本研究会は、堀川徹氏が代表を務める科学研究費基盤B「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」と京都外国語大学学内共同研究「ウズベキスタン共和国における博物館収蔵物と地域課題に関する実践的研究」の共催である。今年も日本全国から、二日間で延べ33人もの多くの参加者が集まった。講師を務めたのは、磯貝真澄氏(京都外国語大学外国語学部非常勤講師)と木村暁氏(京都外国語大学国際言語平和研究所嘱託研究員)である。

本研究会は今回で15回目と節目の年を迎えた。そのことを記念して、研究会の冒頭に堀川氏から、「古文書セミナー15年」と題する講演があった。その中では、本研究会がこれまでファトワー文書や売買文書など中央アジアに関する様々な種類の古文書を取り上げてきたこと、さらにこれまで研究者や大学院生、法曹関係者などをはじめ120名以上が参加してきたことが紹介された。この中には、中央アジアの歴史研究者だけではなく、中東地域から中国まで幅広い地域や、文化人類学、社会学など様々な分野に携わる国内外の研究者が含まれる。加えて中央アジアの歴史に関心を持つ一般の参加者や、イスラーム法の実践を研究する法曹関係者なども参加してきた。このように本研究会は、中央アジア古文書研究において非常に高い水準を誇りつつも、多様な参加者を惹きつけてきた。その背景には、科学研究費を始めトヨタ財団など国・民間の様々な補助金・助成金の支援があったこと、そして何より、今年度まで京都外国語大学国際言語平和研究所の所長を務め、発足時から中央アジア古文書研究プロジェクトを主導してきた堀川氏や、本研究会の講師を長年務めた磯貝健一氏(追手門学院大学国際教養学部教授)と矢島洋一氏(奈良女子大学研究院人文科学系准教授)らの多大な尽力があったことがあげられる。各氏に深い謝意を表したい。

さて今回の研究会において、一日目には磯貝真澄氏が「ヒヴァとブハラの売買契約及び「合法売買」契約の文書」と題して、講読を担当した。取り上げた文書は、「イチャン・カラ」博物館所蔵のチャガタイ語で書かれた2点とブハラ国立建築芸術保護区博物館所蔵のペルシア語で書かれた2点であった。合法売買(bay‘-i jā’iz)とは、売買契約と賃貸借契約を組み合わせることによって、イスラーム法で禁止された利息を取る融資を事実上可能にする契約のことを指す。まず、一般の売買契約の規定とチャガタイ語もしくはペルシア語で書かれたその契約文書について、両言語の文書それぞれ一点ずつを事例として説明された。それらを前提として、残り2点の文書を講読しつつ、合法売買の契約規定とその契約文書の様式が解説された。

二日目の文章講読は、木村氏による「ブハラ・アミール国とヒヴァ・ハン国の勅令」と題するものであった。講読した文書は、ブハラ国立建築芸術保護区博物館所蔵のペルシア語で書かれた2点と「イチャン・カラ」博物館所蔵のテュルク語で書かれた1点である。まず、ブハラ・アミール国におけるワクフ管財人(mutawallī)の任命文書を講読し、正式な勅令に用いられる文言や様式を省いた「略式」の勅令が紹介された。次にブハラ・アミール国におけるイスラーム法官(qāḍī)の任命文書が取り上げられ、正式な勅令の文書様式について解説があった。最後に、ヒヴァ・ハン国における国有地の免税私有地への転化に関する文書の講読を通して、テュルク語における勅令の文書様式が説明された。

各文書の講読や総合討論の時間において、参加者と講師を交えた活発な討論がなされた。例えば、磯貝真澄氏の講読文書について、文意は定型的な表現と一緒であるが、使用語彙が一部分異なる判読案が提示された。また木村氏の講読文書に関連して、勅令あるいは「略式」の勅令など、命令文書の分類基準について質問が出た。

上述したように、中央アジアという地域や古文書という歴史史料、裁判を通したイスラーム法の実践など多様な関心を持つ参加者が、本研究会に集まっている。そのため本研究会は、古文書の分析手法を伝授するという研究・教育上の意義を持つだけではなく、研究の垣根を超えた学術交流の場としての大きな役割を担っていると言ってよい。15回という節目を越えて、今後も中央アジア古文書セミナーが継続、発展していくことを強く希望したい。

(文責:徳永佳晃)

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