東洋文庫ミュージアム「もっと知りたいイスラーム展」記念講演会

東洋文庫ミュージアムとイスラーム地域研究東洋文庫拠点は、共催により以下の講演会を開催しました。

【開催日時】 2015年3月15日(日)
【開催場所】  東洋文庫講演室

【プログラム】
13時15分:開場
13時30分:開催者挨拶 平野健一郎(東洋文庫普及展示部長)
13時35分:講演① 三浦徹(お茶の水女子大学教授・東洋文庫研究員)
「遠くて近いイスラーム世界」
14時15分:質疑応答
14時20分:休憩
14時30分:講演② 保坂修司(日本エネルギー経済研究所研究理事)
「サイバー・イスラーム:インターネットがつなぐ日本と中東」
15時30分:質疑応答
15時45分:終了

【概要】東洋文庫ミュージアムで2015年1月10日から4月12日まで開催されている企画展「もっと知りたい!イスラーム展」は、日本人人質事件の報道などによるイスラーム地域への関心の高まりを受けてか、連日多数の入場者が訪れ、前年の同時期と比較すると、1月は2倍、2月は3倍の入場者数があった。同展にあわせて開催された講演会も、約70名の参加者があった。

まず平野健一郎・普及展示部長から、東洋文庫における西アジアやイスラーム地域の研究の伝統について紹介があった。今回の企画展は、「イスラーム国」などの報道が盛んになる以前から企画されており、東洋文庫の多くの研究員の研究の蓄積によって可能になっていることや、様々な企画展を行う東洋文庫ミュージアムにも固定ファンが増えつつあることなどについて指摘があった。

三浦徹氏の講演「遠くて近いイスラーム世界」は、日本人のイスラーム認識について、高校生や大学生を対象に行ったアンケート調査の結果を示しつつ、日本とは異なるイスラーム教徒の習慣については認知度が高い反面、西欧・日本と共通するような側面(キリスト教・ユダヤ教とおなじ一神教であることや、書道、科学の伝統)については認知度が低いことを指摘し、異質な文化であるという先入観が、イスラームに対する知識や認識の偏りを無意識に助長してしまっていると分析した。また、戦前の日本の研究は、イスラーム世界を日本と同じ東洋と見ていたにもかかわらず、その時々の政治的位置によってスタンスが揺れ動いたため、知識の蓄積がなされず、今日は異質な文化をもつ地域として認識されていると述べた。中東に対する決して間違いではない知識が、全体の位置づけのなかで我々との異質性を強調する結果になり、中東やイスラームについての誤った認識を生むことになる。それに対して「違い」の強調ではなく、共通性の理解から出発することの重要性を指摘した。

続いて、保坂修司氏が「サイバー・イスラーム:インターネットがつなぐ日本と中東」と題する講演を行った。氏はまず古代の粘土板やパピルスに始まる情報通信技術と中東の関わりにふれ、写真や電話、ラジオ、衛星放送など、新しい情報通信技術には宗教的な理由で一部に強い反対が存在しており、中東諸国における政治的自由度や報道の自由度の低さ、インターネットの普及やFacebook、TwitterなどのSNSの浸透とそれに対する検閲や規制の存在について説明した。また、インターネットによって日本にいながら現地の報道やテレビをリアルタイムで閲覧することができ、同様に、中東にとっても日本が身近な存在になり、特に日本のアニメやゲームに高い関心が持たれていると説明した上で、お互いの情報が容易に入手できるようになった一方、バイアスのかかった情報も多く、こうした情報に対するリテラシーを向上させるためには、専門家の話やメディアの情報を一つだけ聞いて信用するのではなく、様々な情報を比較しながら正しい情報に近づいていくことが必要な時代になってきていると強調した。

テロや過激派集団に関する報道が増えているなかで、中東やイスラームに関する日本人の理解も表面的なものになりかねない。両氏の講演は、情報をいかに読んで吟味し、理解するかという情報リテラシーの問題が、これまで以上に重要性を帯びてきていることを示したという点で共通しており、そこで文献史料の役割が指摘されていたことが印象的であった。各講演後の質疑応答では参加者から様々な質問がなされ、イスラームやイスラーム関連報道に対する参加者の意識の高さがうかがわれた。専門家の講演を聴き、直接疑問をぶつけることのできるこのような講演会の開催は、イスラームをもっと知りたいと思う参加者にとっても、大変有意義なものであったと思われる。

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