第12回中央アジア古文書研究セミナー(2014/3/22)

以下の要領で、科学研究費補助金「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」とNIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点との共催により、2013年度の「中央アジア古文書研究セミナー」を開催しました。

【日時】:2014年3月22日(土) 12:00~20:30
【場所】:京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)
【プログラム】
12:00-12:20 趣旨説明(堀川)、参加者自己紹介
12:20-13:50 文書講読(1)「ブハラとヒヴァの婚姻認証文書」
講師: 矢島洋一 (奈良女子大学研究院人文科学系)
13:50-14:10 コーヒーブレーク
14:10-17:30 文書講読(2)「帝政期フェルガナ州のタズキラとファトワー」
講師: 磯貝健一 (追手門学院大学国際教養学部) (15:40-16:00 休憩)
17:30-17:40 休憩
17:40-18:40 総合討論
19:00-20:30 来年度研究計画についての打ちあわせ
※21:00~懇親会

【概要】
2014年3月22日に京都外国語大学において、恒例の中央アジア古文書セミナーが開催された。通算12回目となる今年のセミナーには、学部学生や修士課程の学生からも参加者を得ており、関西圏東京圏だけでなく幅広い顔ぶれが集った。例年に引き続き、磯貝健一氏(追手門学院大学)と矢島洋一氏(奈良女子大学)が講師を務めてくださった。2014.3-3

ホストである堀川徹氏の趣旨説明と参加者の自己紹介のあと、早速文書の講読・分析に移った。前半において、矢島氏は、「婚姻認証文書」と仮称する文書を扱った。(どのように命名すべきかも含めて今後の課題とのことである)。氏によれば、本文書は売買文書などに比べて点数が少なく、認証を与えるというよりは、命令書というべきものかもしれないという。機能的には当事者の申請に基づき婚姻を認証するものである。今回ブハラからの二通のペルシャ語文書、ヒヴァからの二通のチャガタイ語文書を講読した。文書の特徴、ヒヴァ・ブハラ文書の比較としては以下の点があげられる。初婚か再婚かも記される(初婚=処女性の問題は、新婦に対する後見人の役割に違いが発生するという)。ヒヴァでは表面に捺印、ブハラでは裏面に捺印される。この文書のなかで議論となったのは、「人々の間で知られている二つのことを逸脱しないように」という文言である。この「二つのこと」が何を指すのか婚資ことか、それとも他の約定のことか議論になった。またヒヴァでは女性の名前が記されない。

講読後、参加者からは、本文書は、オスマン朝においてカーディーがイマームに対して発行されるizın nameに非常に近いとの指摘がなされた。また婚姻を仲介するイマームをなぜ当該文書中では“mubashir”と呼ぶのか議論があった。また本研究プロジェクトがこれまで収集した文書に婚姻契約文書が見られないため、語彙について検討の余地が残るという。今後ロシア統治期の台帳等との照合を検討したいとのことであった。

磯貝氏担当の講読では、タズキラと呼ばれる文書を取り扱った。磯貝氏は二種のタズキラが存在することを指摘する(ムフティーに提出した審理の途中経過を記したタズキラについては磯貝氏の近刊の論文で論じられている)。いずれも裁判に関係するものである。今回取り扱うタズキラは判決概要を記す。今回取り上げる3つ文書はある土地を対象としたタズキラ、訴状、ファトワーであり、それぞれ相互に関連している。2014.3-6

磯貝氏は最初に訴状を分析した。この訴状は、紛争対象となっている土地の説明(チャガタイ語)、訴状(ペルシャ語)、ファトワー(ペルシャ語)、ファトワーの根拠となっている法学書からの引用(アラビア語)から構成されている。今回取り上げた案件は、相続した土地をめぐる訴訟でイトコ同士の争いである。次に、今回特に注目しているタズキラ(チュルク語)を講読し、そのあとでファトワー文書を講読した。最後に取り上げたファトワー文書にはタズキラの内容が引用されており、史料の関連性が色濃く見いだされることが指摘された。

本セミナーは、中央アジア史・イスラーム法文書研究の基礎力強化に大いに非常に貢献すると同時に、中央アジア、イラン、アラブ、オスマン史、東トルキスタンの専門家が一堂に会する貴重な学術交流の場という側面も有している。また参加者の顔ぶれが示す通り、若手学生の教育という役割を担っている。また本セミナーの母体となっている中央アジア古文書プロジェクトから研究成果として、『シャリーアとロシア帝国』(京都:臨川書店)が出版される。これまでの成果の一端がより多くの研究者や学生に共有されることを喜びたい。本セミナーの内容は国際的に見ても極めて水準が高く、開催に尽力されている堀川徹先生、磯貝健一先生、矢島洋一先生に感謝を示すとともに、今後もこの機会が継続されることを強く希望したい。

(文責:阿部尚史)

« »