近代中央ユーラシア比較法制度史研究会(旧:中央アジアの法制度研究会)

イスラーム地域研究東洋文庫拠点は、科研費「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」(基盤研究(B)・研究代表者:堀川徹)との共催により、以下の要領で「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(旧:中央アジアの法制度研究会)を開催しました。

【日時】:2013年7月6日(土) 14:00~20:00
【場所】:京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)
【会場アクセス】:http://www.kufs.ac.jp/aboutkufs/campus/access/index.html
【プログラム】
14:00~14:10 開会挨拶(堀川徹)
14:10~14:40 出席者自己紹介
14:50~16:50 研究報告・質疑応答
磯貝健一(追手門学院大学国際教養学部)
「ロシア帝国領中央アジア・シャリーア法廷における裁判文書作成プロセス」
16:50~17:10 コーヒーブレーク
17:10~18:10 研究会開催計画に関する会議
18:20~20:00 科研費による研究計画に関する会議
20:00~    懇親会
【概要】

2013年7月6日(土)、京都外国語大学国際交流会館4階会議室において、第1回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が開催された。本研究会は、これまで2007年から年2回開催されてきた中央アジアの法制度研究会を発展的に継承し、研究対象地域をロシア・ソ連の統治下にあった中央アジアにとどまらず、清朝など中央ユーラシアに統治を及ぼした諸帝国の法制度・法社会史に広げている。本研究会を主催する「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」プロジェクト(科学研究費補助金(基盤研究B)、代表:堀川徹・京都外国語大学教授)は歴史学、法学、法実務者を中心としつつも、清朝、イラン、コーカサス、中欧を研究対象地域とする研究者が加わり、本研究会において当該課題に関する議論を展開していくとともに、若手研究者や他地域をフィールドとする研究者を主対象とする中央アジア古文書セミナーの実施、さらに中央アジア現地における古文書調査を行っていく。さらに本プロジェクトは、ウズベキスタン共和国の中堅・若手研究者も海外共同研究者として加わる国際的な研究プロジェクトである。

今回の研究会は19名の参加者を迎えた。冒頭で堀川徹氏は、2001年より毎年継続している中央アジアの古文書調査・研究の進捗状況を紹介し、その成果をユーラシア諸帝国の事例と比較する必要性について説明を行った。さらに参加者の間からは、他の研究プロジェクトと連携した研究会実施についての提案が出された。引き続き磯貝健一氏(追手門学院大学)は、「ロシア帝国領中央アジア・シャリーア法廷における裁判文書作成プロセス」と題する報告を行い、これまでの中央アジア古文書研究(とくにイスラーム法廷文書研究)の成果および氏の最近の新知見を紹介し、これまでの中央アジアの法制度研究会とこれから行っていく近代中央ユーラシア比較法制度史研究会との関連について解説を行った。とりわけ台帳化されずに紙片状で、現地に民間所蔵の形で多数伝存しているファトワー(ムフティーがその法的判断を提示したもの)の反対面に記載されたタズキラの作成過程を復元し、その法廷における役割を明らかにした点は、近年盛んになった古文書研究の中でも、重要な発見である。紙片状文書よりもまとまった記述が得られる台帳に注目する世界的な研究潮流の中で見落とされている古文書研究のあり方に一石を投じた。

本研究会は今後、世界に先駆け1992年に活動を開始し、イスラーム法廷文書など民間所蔵文書の収集・整理・分析を中心に活動してきた中央アジア古文書研究プロジェクトによって蓄積されてきた研究成果の公表、ならびにそれらとユーラシア諸帝国の法制度・法文化をめぐる事例との比較を行っていくことになる。二次文献にもとづく多数の研究成果が蓄積されていく今日において、古文書史料という一次文献の、さらにその収集、整理、分析という作業を通して出される研究成果の公表は、スピードに欠ける面があるかもしれない。しかし一次文献にもとづく地道な研究成果が、たとえば欧米の中央ユーラシア史研究のように一部の研究者の超人的な努力に頼るようになってしまうと、今は多数出されている二次文献にもとづく著作は、その依拠すべき一次文献にもとづく研究成果という基盤を失って蓄積されなくなり、私たちの社会が培ってきた知識や思考は貧困化する。そうならないために、本研究会ならびにその母体となる「近代中央ユーラシア地域における帝国統治の比較法制度・法社会史的研究」プロジェクトは不断の努力を重ねていく。

(文責:塩谷哲史)

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