英国、モロッコにおける図書館及び資料調査

[期間]
2011年2月10日(木)~2月24日(木)
[国名]
英国、モロッコ王国
[出張者]
柳谷あゆみ(人間文化研究機構 / 東洋文庫)
[概要]
本出張の目的は、ロンドンでの写本DB調査及びモロッコの図書館・文書館調査である。

2月10日にロンドンに到着し、大英図書館、ウェルカム・ライブラリーにて資料および資料DBの調査を行った。
ウェルカム・ライブラリーは英国大手製薬会社の創立者である故ヘンリー・ウェルカム卿が創設した医薬系図書館で、イブン・シーナー『医学典範』など、中世の自然科学に関するアラビア語著作写本87点から成るハッダード・コレクションを所蔵している。このハッダード・コレクションを中心としたアラビア語写本500点のDBが完成間近と聞いたので、開発者 ニコライ・セリコフNikoraj Serikoff氏よりDBのプロトタイプを見せていただき、概要を伺った。

このデータベースの特色は、多様なユーザーに合わせた構造と写本の特性に合わせた検索システムにある。記述すべき書誌情報は、通常は英米目録規則の記述精粗レベルの三段階によって選択されるが、本データベースでは、ライブラリアン向け・インテレクツ向けというように独自の区分を用いて整理し、それぞれの層が関心をもつ書誌情報を分けて掲載している。

また、本データベースに収録されている写本は、誤字もそのまま転記したオリジナルのテキストと、誤字等を修正してある校訂テキストの双方によって、単語レベルでの全文横断検索が可能である。写本の画像は、拡大・縮小が可能で、また画像ウィンドウ自体も拡大・縮小可能。ライブラリアン・研究者双方のニーズに合わせた面白い設計で、このまま公開されれば幅広い層に有用なDBになるのではないかと思う。
セリコフ氏の話によれば、今年5月に本データベースは公開予定、無料で利用可能との由。また、写本資料を保有する機関があれば、このDBにぜひ参加してほしいとの希望も伺った。現在は、自然科学分野に関するアラビア語古典写本が中心だが、参加ジャンルは特に限定されず、将来的にはアラビア語以外の言語の資料にも対応可能だが、文章の構造上、文書よりは現時点では書籍を主対象としたいとのことである。

2月14日夜からモロッコに移り、ラバトにて図書館・研究機関の利用環境調査及び資料調査を行った。
預言者聖誕祭(2月15日)が重なったものの、市内の国立図書館、王立図書館、オランダ・モロッコ研究所(Netherlands Instituut in Marokko)にて調査を行い、またジャック・ベルク・センター、ラ・スルス文書館を訪問した。王立図書館では写本目録の寄贈を受け、またオランダ・モロッコ研究所ではHoogenland所長と面会して図書館施設の紹介のほか、研究・教育事業についても概要を伺った。
19日から陸路でフェズへ移動し、旧市街にあるカラーウィーイーン図書館にて調査を行った。

モロッコ国内では、首都ラバトで20日に大規模なデモが行われ、21日にはラバト以外の都市でもデモが発生した。
21日には、フェズ新市街でのデモのため、午後2時ごろから旧市街でもスークのほぼ全店舗が閉店し、カラーウィーイーン図書館も閉館となったが、大きな混乱はなかった。図書館から出されて街の人たちと一緒にぞろぞろ帰途についていると、棍棒を持っている人を何人も見かけたが、見られているのが判ると皆「問題ない」と笑顔で棍棒を服の中に隠していた。
途中では「政府は好きではないが、良い国王なのでうまく計らってもらいたい」という話をよく耳にしたので、国王賛成内閣反対との印象を受けたが、デモそのものは見ていないので、詳細は判らない(なお、18日にはラバトで10数名のデモを見たが、見た限りでは正規雇用の拡大など経済的な要求を訴えており、体制批判という印象は受けなかった)。
22日にはほとんどの店は通常通り営業を行い、カラーウィーイーン図書館でも無事に調査が進められた。

モロッコ国内の図書館・文書館の利用環境の調査結果は東洋文庫拠点サイト中の資料館ガイドとして反映する予定でいるが、全般的に以下の二点は共通して言えると思う。
①モロッコの休日である土曜・日曜日と祝日は休館②原則としてパスポート提示による身分証明により閲覧は可。
ただし、写本資料の閲覧・複写については、目録がネット上で十分に公開されていない機関も多く、王立図書館のように複写不可の機関もあるので、十分な準備と期間が必要である。
以上が本出張の概要である。

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