アラビア文字図書DB連絡会(2010年度)
アラビア文字図書所蔵機関の担当者が集まり、アラビア文字図書整理環境の改善と書誌の質の向上を目指して連絡会を開催しました。以下に報告を掲載いたします。
[日時] 2011年3月4日(金) 13:00-16:00
[場所]財団法人東洋文庫2階講演室
[参加機関]
アジア経済研究所図書館/大阪大学外国学図書館/京都大学アジア・アフリカ研究科図書室/慶應義塾大学メディアセンター/大学図書館支援機構/
国立国会図書館関西館アジア情報課/国立情報学研究所/東京外国語大学附属図書館/東京大学文学部図書館人文社会系研究科図書室/
/東北大学附属図書館情報管理課/東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室
[概要]
1.昨年度報告 / 東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室 柳谷あゆみ
昨年度連絡会開催以降の活動については、①アラビア文字資料整理担当者ミーティング(2010年3月5日)及び情報共有を目的とした「アラビア文字資料整理メーリングリスト」の設立(詳細は昨年度報告を参照されたい)と、②イスラーム地域研究資料検索・利用環境の調査(2010年1月~2月履行)の二つについて報告された。
②イスラーム地域研究資料検索・利用環境の調査は2010年1月~2月にかけて実施され160の回答を得た。報告は、収集・利用について質問別の回答傾向を示すとともに、今後の改善点について「検索・入手における資料へのアクセスが難しい」「資料の絶対数が少ない」といった指摘が特に多いことから、これらの結果を具体的な対策へ結び付けていく必要があると結論した。
補足として、報告者が2010年3月に参加したエジプトの司書ポータルCybrarianによるMARC21研修が紹介された(詳細は昨年度報告を参照されたい)。この研修の特色はFacebookでのCybrarianグループ参加者であれば所属や国籍を問わず参加可能である点である。
本報告後、イスラーム地域研究東洋文庫拠点の三浦徹代表が、(デモにより一時的に上がっている)中東への注目を継続させる為にも資料の組織的利用及びデータベースの必要を強調し、来年度から二期目に入るイスラーム地域研究事業について、新たな課題を認めつつも推進していく意向を述べた。
2.外部委託による整理作業者を含めた、整理支援について
アラビア文字資料の、非常勤職員、特に外部委託による整理について報告が行われた。自館スタッフ以外による整理といっても、業務委託・派遣など業態はさまざまであり、さらに館外整理か館内整理かによっても状況は異なるが、それぞれのケースにおける問題点が具体的に挙げられ、対応が協議された。概要は以下のとおりである。
業務委託によって館外で整理を行った場合、搬出入の作業的な困難、資料返還後の点検作業にかかる労力が問題となる。また、業務委託は、委託者(図書館)と受託者(委託業者)間のやり取りでなければならないため、館内での整理の場合、委託業者から派遣される作業者に図書館側が(委託業者を介さず)直接指示を与えると、偽装委託となってしまうという問題がある。
さらに、業者の担当者が行った作業にミスが見つかるというケースも存在する。整理者個人の語学・目録作成能力が作業の成果に関わる為、図書館側が整理業務担当者を委託先に紹介し、その人材が委託先と契約を結ぶ方法が対策として考えられるものの、これも偽装委託として法に触れる恐れがある。
派遣という形で非常勤職員に整理を任せる場合は職員が直接指示を出せるが、司書業務が(労働者派遣法で無期限で派遣可能とされている)専門的26業種に含まれない為、(長期雇用などで)法に抵触する可能性がある。また、委託と同様、派遣されてくる人間の能力水準が一定でないという欠点が存在する。
現在の状況で、アラビア文字資料整理の委託を行う際、精度の向上の為に図書館側ができることは、仕様書を的確にすることである。今後、状況を改善する為には、仕様書に記載可能なように作業者のレベル認定が一般化することが望ましいと考えられる。
各館報告及び協議ののちに、幅広い層を対象とした整理支援の一つとして、 NPO大学図書館支援機構(IAAL)による大学図書館業務実務能力認定試験についての報告に移った。
【報告】大学図書館業務実務能力認定試験について / NPO大学図書館支援機構
>>参考:大学図書館業務能力認定試験
大学図書館業務実務能力認定試験とは、 NPO大学図書館支援機構による図書館業務専門能力の検定試験で、「総合目録-図書」と「総合目録-雑誌」の二部門に分かれている。現在は、「総合目録-図書」では検索・同定・所蔵登録についてを検定する初級と書誌登録についてを検定する中級の二階級、「総合目録-雑誌」では初級のみ試験が実施されている(今後、分野ごとの専門知識の評価基準を上級として作っていくことも検討されている)。
この試験の目的は、客観的な職業能力評価の指標の一つを提示することにある。
客観的に職業能力のレベルが証明されることで、採用者側ではこれを採用の際の参考材料と出来、図書館業務に就く側には、レベル認定が専門的知識の獲得・定着に向けた学習意欲の向上に結び付き、また将来的にはこれを待遇の根拠とすることも考えられることから、人材確保・待遇改善の両面で効果が期待される。
最後に、この試験は国立情報学研究所の後援を受けているが、継続・発展に向けては、個々の図書館においても意義が認知されるとありがたいとの期待が述べられ、報告が締めくくられた。
3.その他
(1)アラビア語雑誌遡及入力について
アラビア文字言語雑誌遡及入力状況について各館が報告を行った。
アラビア文字言語雑誌遡及入力については、イレギュラーな事例も多いことから、どの館においても特化したマニュアルまでは作成しておらず、過去の事例や、LC、目録規則、AACR2、コーディングマニュアルを参照し、不明点はNIIへ問い合わせる、といった方法で対応している。
また、アラビア文字言語資料特有の問題点として、年月日をヒジュラ暦から西暦に直すことがあり、以前のデータを参考にすると共に、Web上の変換システムを参照しているとの報告がされた。
アラビア文字言語資料中の雑誌は、発行機関、タイトルの変化が多く、対処が困難であり、各館で基準に揺れがある為、グレーゾーンがあることを共通認識としつつ、グレーの範囲を絞るように、NIIだけでなく専門的な実務者の集まりで、基準を合わせていくことが望ましいと意見が出された。
(2)アラビア文字資料収書について
現在、アラビア文字言語資料の網羅的収書を行っている機関はないが、体系的な収集の為、特殊言語資料を収集する図書館間で、何らかの共通認識は持てないか?また、イスラーム地域研究が長期間の収書を行えるならば、より体系的な収集が行えないか?との疑問がだされ、選書と収集について報告が行われた。
大学図書館は全般的に教員・学生からの購入希望及び(図書館を通さない)現地購入によって収集を進めており、専門図書館では研究員及び図書館職員による選書・現地購入に拠っている。国立国会図書館関西館は、研究者が作成したリストを指針に基本蔵書を揃えた後、職員の個別発注と国際交換によって、収集が行われている。
いずれの場合も、選書に当たる人間の専攻や言語知識によって選書傾向が左右されるという問題点があり、また将来的には重複資料の増加も問題となる。選書及び購入の現状は確認できたが、明確な対策を挙げることは今回の連絡会では出来なかった。
なお、体系的な購入の指針の一つとして、LCカイロ事務所による 中東資料共同購入プログラム(MECAP)が挙げられた。今回参加機関では本プログラム参加は現状ではないが、LCジャカルタ事務所が行っている東南アジア資料共同購入プログラムには参加している機関があり、有効性を認める意見もあった。
4.総合協議
国立情報学研究所に対する質問が二点寄せられ、回答があった。
(1)2009年に募集された特殊文字、特殊言語資料の案に対するパブリックコメントについてその後の展開はどのようになっているか。
回答:意見募集時点の案に対する大幅な変更はおそらくない。確定の時期については現時点で明確な期日を以っては答えられないが、本件は継続して検討されている。
(2)遡及入力事業の進行について
回答:現在第三期の一カ年目であり、第三期の計画は通っているが、その後については現時点では予測がつかない。
また、検索に用いられるLCの翻字規則が、利用者一般に知られていないという指摘に対し、OPACからLCのページにリンクを張る、可能ならばLC翻字規則の和訳を作成し、リンクを張れるようにできると望ましい、との意見が出された。この点については、東京外国語附属図書館や京都大学附属図書館などリンクを実施している機関もあるが、今後さらなる改善が望まれる。
文責 大野佑衣(慶應義塾大学文学研究科)
(2011年3月16日更新)