アラビア文字図書DB連絡会(2009年度)

[日時] 2009年5月29日(金) 14:00-16:00
[場所]早稲田大学41-31号館2階会議室(202)
[参加機関]
アジア経済研究所図書館/大阪大学外国学図書館/京都大学アジア・アフリカ研究科図書室/
国立国会図書館関西館アジア情報課/国立情報学研究所/東京外国語大学附属図書館/東京大学文学部図書館人文社会系研究科図書室/
東京大学東洋文化研究所/東北大学附属図書館情報管理課/東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室

[概要]
本連絡会は、アラビア文字図書所蔵機関及び国立情報学研究所の整理担当者等が、アラビア文字資料の整理上の問題点などを話し合い、情報を共有するとともに、対策を協議することを目的として開催するものである。昨年度は東洋文庫改修等の影響もあり開催が見送られたため、今年度は5月に開催することとなった。

[報告] 「日本におけるアラビア文字資料の所蔵及び整理状況の調査」アンケート最終報告
/ 東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室

東洋文庫イスラーム地域研究資料室は、以下の通り19年度11月より実施した「日本におけるアラビア文字資料の所蔵及び整理状況の調査」アンケートの最終報告を行った。
※なお、本調査報告書は2009年3月に刊行され、PDFファイルがサイト上で公開されている。 >> 報告書
本アンケートは、国内の文系四年制大学図書館及び専門図書館、国立図書館、主要公共図書館を対象として実施され、A.収集状況、B.整理状況と目録、C.整理入力作業、D.目録規則・マニュアル、E.公開状況、F.整理支援の必要性の6項目にわたって回答が求められた。回答率は47.59%、調査対象582機関のうち277機関が回答した。

アラビア文字資料を「所蔵している」と回答した機関数は98館(回答中の35%強)で、97年に実施されたイスラーム地域現地語資料調査結果と比しても所蔵機関数の明らかな増加が認められた。資料数については、タイトル数で回答した機関と冊数で回答している機関とがあるため、単純に数値を合計することは出来なかったが、最も少なく見積もっても前回調査と比して2倍の蔵書数となっていることが確認できる。しかし、言語別に各館所蔵数まで比較検討したところ、調査対象全言語で所蔵数上位5機関の所蔵分が7割以上を占めており、所蔵状況には偏りがあることも見て取れた。
所蔵資料の状態については、所蔵館の8割弱が「ほぼ全部整理されている」と回答しており、加えて所蔵機関の93.8%は資料を公開している(条件付公開を含む)。これらの結果を見る限り、アラビア文字資料の所蔵状況及び利用環境は確実に改善されていることがわかる。

一方、整理入力作業については、まず目録データベース化の進行が確認された。
入力は依然として翻字が優勢である。
また、注目すべき変化として、目録登録作業について「流用・所蔵登録のみ」と回答した機関が全体の四分の一強(26機関)を占めたことが挙げられるが、この要因の一つとしてNACSIS-CAT遡及入力事業によるアラビア文字言語書誌登録数の増加が指摘できる。
「整理入力作業を業者委託及び遡及入力事業にて実施している」との回答も全体の三分の一強を占め、自館外での整理・入力という業務形態が定着していることが確認できる。業者に整理・入力作業を委託している機関の八割は委託の際に目録規則及び翻字規則を提示するのみと回答しているので、業者側でのマニュアルや研修の有無が重要なポイントとなるが、この点は残念ながら今回の調査ではフォローできなかった。
業者や教員・大学院生など、機関外の人員による整理・入力作業の実施は97年のイスラーム地域現地語資料調査の時点でも報告されているが、その必然として所蔵機関の担当司書が整理入力作業現場の現況を把握しきれない事態が現出している。今回調査結果に対して、補足調査(各機関OPAC検索による入力規則確認)を行った結果、これは改めて確認された。

書誌の質の維持のためには、マニュアルや補助ツールの開発、講習会の実施等でこれらの実際に整理入力にあたる作業者をフォローしていくことが急務であるが、作業者へのフォローはいわば応急処置であり、少なくとも所蔵数上位機関においては正職員レベルでアラビア文字言語資料の専門家の養成が必要な時期に来ているのではないかと考えられるということが結論として述べられた。(報告 了)

[協議] 補助ツール・講習会について
報告に続けて、現在東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室サイトにて作成・公開されている補助ツールの紹介及び今年度作成予定のツール紹介、それらに関する意見交換が行われた。
補助ツールは、前年度にアラビア語序数及び地名参考が追加され、今年度は出版者参考等が追加される予定である旨報告された。また、各機関からは新規掲載候補としてペルシア語の序数やアラビア文字の書体参考、目録用語事例集への要望が述べられた。
新規の補助ツール「アラビア文字言語資料整理簡易ガイド」(「日本におけるアラビア文字資料の所蔵及び整理状況の調査」報告書に付録として掲載)は、東京大学文学部図書館人文社会系研究科図書室での作業マニュアルの参考資料としても用いられ、報告中に同マニュアル「特殊文字資料 原綴・翻字データ・シート作成マニュアル」とともに紹介された。
講習会の有効性は、今回の連絡会で予め設定していたテーマであるが、連絡会では、講習会よりもアラビア文字資料の取り扱いに迷ったとき状況に即応できる補助の方がニーズが高いのではとの意見も述べられ、講習会を実施する場合にも、対象をどこに設定すべきか(=作業者か、担当司書か)、またそれぞれにどのような内容を伝えていくべきかの策定が必要との意見が交わされた。
またアンケートの回答にもあったように、特に作業者の場合、臨時職員等での雇用が多いため、講習会参加の為の出張を制度上・財政上承認しがたいとの意見があった。調査によって、現在は全体の3分の1の機関が整理業務を外注していることもあり、委託先の作業員をも対象としてフォローしないと有効とはいえないという認識を持った。

[報告] NACSIS-CATにおける多言語資料登録方針について
/ 国立情報学研究所コンテンツ課

国立情報学研究所コンテンツ課はNACSIS-CATにおける多言語資料登録方針について、これまでの進展と現状の報告を行った。
NACSIS-CATでは、2000年に目録システムの多言語化が始まり、韓国・朝鮮語資料(2002年)、アラビア文字資料(2003年)、タイ文字・ディーヴァナーガリー文字資料(2006年)へと運用範囲が拡大されてきた。
現況では、主要な言語・文字の取り扱いについては規定済みと認識しているものの、その他の特殊言語・文字について、これまで同様に言語ごとに規定していくのには限界があるので、多言語のための一般則の策定によって対応したいと考えている。

多言語資料一般則案(案であり、承認・決定はされていない ※2009年5月現在)
・TR, VT, CWについて
TR:原綴||原綴(ヨミ)分かち||翻字(ALA-LC)
・UCSに無い文字
◆翻字◆
・典拠の標目形
ALA-LC翻字
原綴はSF

また、多言語対応におけるシステム的課題として(1)検索用インデックス (各言語・文字を考慮した変更には限界がある)(2)書字方向(右横書きについてはある程度対応、縦書きは未対応)の二点の報告があり、次世代CAT/ILLに向けて「目録センター」館指定も考えているものの、その実現性については現時点では特に進展が見られないとの現状を明らかにした。(報告 了)

上記の「一般則案」はまだ案段階であり、承認・決定の目処は立っていないと報告されたが、これに対して「一般則の策定によって(結果的に一般則から外れる内容となってしまう)これまでの入力分は修正を要請されるのか」という質問や、「修正等の手数が増えるなど問題もあるが、現在のルール無しの状況ではますます機関によってブレが大きくなってしまうので、ぜひ一般則の策定・決定を急いでほしい」との要望も寄せられた。

また、今回の連絡会で度々話題となったのは、業者委託(=外注)の際の整理業務の現状である。委託経験のある機関からは、業務終了後に(NACSIS-CATへの二重登録等のミスも含め)かなりの修正を要した書誌データもあったとの発言もあり、作業者によって書誌データの質に大きな差があり、作業者の業務キャリアの長さが作業能力の高さの裏づけにはならない等、事例を交えて率直な意見が述べられた。
これらの指摘より、今後の支援については、委託で整理業務を請け負う作業者をも含めたフォローが必要であり、また担当司書サイドでもこれらの書誌修正を行えるだけの知識を身につけられればよいのではという発言があった。

今回の連絡会は、対応について結論が出ないこともあったが、率直なやり取りも見られ、現状や課題がより具体的かつ明確になったという点で実りの多い会合となった。今回明らかになった問題点の解決・改善に向けてさらに活動を進め、翌年度へとつなげていきたい。

文責 柳谷あゆみ(人間文化研究機構/東洋文庫)

« »