第2回「オスマン帝国史料の総合的研究」研究会(2008/9/16)

第2回研究会
[日時]  2008年9月16日(土) 13:00~17:30
[会場] 東洋文庫3階講演室

[テキスト]ジェヴデト・パシャ『覚書 (Tezakir)』第1巻、5~27頁
[翻訳担当者]秋葉淳・長谷部圭彦・澤井一彰・黛秋津

「オスマン帝国史料の総合的研究」研究班の第二回研究会では、第一回研究会でその第一巻の全訳を行なうことを決定した、アフメト・ジェヴデト・パシャ『覚書』の実際の翻訳活動に入った。担当者が一週間ほど前までに作成し、メールにて参加者の間に回覧した仮訳を基に、参加者全員が具体的な訳文確定作業を行なうという段取りが取られた。なお今回は、前回参加者の中で海外調査中などの理由で日本にいない者も多かったため、実際の参加者は8名であった。

 今回は実際の翻訳作業の一回目ということで、訳出方針についての大まかな合意を得ること、またオスマン帝国史に固有の用語やジェヴデト・パシャに特徴的な表現法について、どのような訳語を当てるべきかという問題について時間をかけて議論がなされた。
その結果、逐語訳を基本としつつも日本語としての意味のとりやすさも同時に追求すること、オスマン史に固有の用語についてもできるかぎりカタカナ音写は減らし意味をとった訳語を当てること、イスラーム関係用語についてはアラビア語の発音に準拠した訳語を当てること、などの点について合意がなされた。

 今回はこれらの問題についての議論を主眼としたために、実際の翻訳作業については予定ほど進捗しなかったが、上記の議論は今後の訳出作業全体に関わる重要な問題であり、参加者の間でこれらの点について大まかな合意が形成されたことは今後の活動のため有益であった。
なお今回、一応の訳出が完了したのは、3-10, 15-16頁である。研究会の場でなされた修正や変更を反映させた上で、担当者が清書稿を再度メールにて参加者に回覧すること、既に担当者が仮訳を作成済みだが今回は時間切れのため全員での検討が行なえなかった部分については次回の研究会に回すことが決定された。また今回の進捗状況に鑑み、次々回担当者からは一人当たりの分量を若干減らすことについても合意がなされた。その上で次回研究会の日程と次々回の仮訳作成担当者との決定がなされて今回の研究会は締めくくられた。

 今回の研究会でも前回同様、活発な議論が展開された。具体的な訳出作業に入ると、予期されていたことではあるが、翻訳という事業の困難さが改めて痛感させられた。訳語の確定に際してはタンズィマート期オスマン帝国の歴史についての深い知識が前提とされるし、原著者の表現法や文体をどのように訳文に反映させるかという問題も安易な解決を許さないものである。
ジェヴデト・パシャの文章は達意で読解それ自体はそれほど困難ではないにせよ、その含意を汲み取った訳文を作成することはまた別問題であり、真剣な努力が求められる事業である。今回のように仮訳作成を参加者で分担し、事前にメールで回覧した上で問題点を持ち寄って当日参加の全員でそれに検討を加えるという方法が実際の作業方式としては最適であることに疑いはないが、全体を通した訳語や文体の統一、多人数の作業では詰めづらい細かな表現の確定、そしてなお残っているであろう誤訳の修正といった問題については、最終的には一人(あるいはごく少数名)の責任において、全体を通した確認作業が必要とされるのではないかと感じられた。

文責 藤波伸嘉(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

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