東洋文庫拠点共催研究会 アフンドジャノフ氏講演会 (2008/02/25)

東北大学東北アジア研究センターとの共催で、ウズベキスタンから書籍文化に造詣の深いエルキン・アフンドジャノフ氏(タシュケント国立文化大学教授)をお招きして、研究会を開催いたしました。

[日時]  2008年2月25日(月) 15:00-17:00
[場所]  財団法人東洋文庫3階講演室      >>会場アクセス

[講演] 「中世のトルキスタンにおける書籍制作の発展:その史的傾向と社会文化的特徴の提要」

Важнейшие исторические тенденции и социокультурные особенности
развития туркестанского книжного дела в средние века

[報告者]   エルキン・アフンドジャノフ氏(タシュケント国立文化大学教授)
[司会] 磯貝健一氏(東洋文庫・京都外国語大学)
[使用言語]  ロシア語(日本語通訳つき)
[報告]
報告者エルキン・アフンドジャノフ氏は、中世トルキスタンの書籍・出版文化に関する専門家であり、これまでも中央アジアにおける図書館の歴史を扱った著書やアヴェスターのテキストに関する論文を発表している。本発表は、中世トルキスタンにおける書籍製作の発展と変遷を時系列に沿って検証し、その文化的特徴の解明を目的とするものであった。

Exif_JPEG_PICTURE まず、報告者はイスラーム以前のトルキスタンの書籍文化に関して、使用された文字だけではなく、当該社会においてどのような文化が広く一般に受容されていたかを検討することが重要である、と指摘した。そして、伝統的に家庭での文字や計算の教育に熱心であったゾロアスター教文化という基盤の上に、イスラーム文化が複層的に蓄積されたところにその後の中央アジアにおける書籍文化発展の要因を見出すことができるとの見解が示された。

次に、イスラーム文化受容以降の中央アジアで作成された書籍の主要なジャンル分けが提示された。そこから、学者・文人層においてアラビア語、ペルシャ語、テュルク語を中心とした多言語を駆使する能力が個人の資質として重視されたこと、さらに上記三言語の写本作成が並行して行われていたことが、中世トルキスタンの書籍文化の大きな特徴であったと指摘した。また、具体的な写本作成の工程としては、書写生、製紙職人、細密画家、装丁師といった様々な職人による分業体制が発達した。Exif_JPEG_PICTURE
こうして作成された写本は図書館に収められたのだが、中世における図書館は、

  1. 支配者によって設置されたもの
  2. マドラサ附属
  3. モスク附属
  4. 一般の人々を対象とした街区の公共図書館
  5. ハーンカーフ附属

に分類可能(重複含む)であることが、史料にあらわれる具体的事例をもって示された。

最後に近現代の中央アジアにおける印刷出版に関する報告がなされた。19世紀中頃以降、中央アジアでは、リトグラフ(石版本)によるアラビア文字の印刷出版の組織が設立された。しかし、ロシア革命と中央アジア5共和国の成立後、ボリシェヴィキによるアラビア文字の書籍の排斥が始まり、それまで築き上げられてきた書籍文化は悲劇的な結末を迎えた、とのことである。その間、中央アジアでは、アラビア文字からラテン文字正書法への移行が行われ、その後キリル文字へ、そして現在再びラテン文字への切り替えが行われている。報告者は、このように使用する文字が頻繁に変化する状況は、前代の知識の継承という点で非常に大きな障害となっていると指摘した。

アフンドジャノフ氏の報告は、発表題目に記された「中世」に限定されることなく、近代にまで至る中央アジアの書籍文化発展の連続性を明らかにしただけでなく、こうした書籍製作の伝統を育んだ社会の学術的関心の方向性にまで踏み込んだ意欲的なものであった。今後、その他のイスラーム地域との比較を通じて、中央アジアにおける書籍文化の独自性をより明確に示すことができるのではないだろうか。

Exif_JPEG_PICTURE[発表者紹介]
エルキン・アフンドジャノフ氏 Dr. Erkin Adilovich AKHUNDJANOV
タシュケント国立文化大学教授。博士。1946年タシュケント生。
中央アジアにおける書籍・出版文化に通暁し、ウズベキスタン文書館アカデミー、モスクワ社会大学(MSSU)等多くの高等教育機関にて豊かな研究・教育経験を持つ。中央アジアの書籍文化に関する研究書も多数著している。

文責 杉山雅樹(京都大学大学院文学研究科博士課程)

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