イラン・イスラーム共和国における史資料の調査及び収集

[期間]
2008年2月25日(月)~3月10日(月)
[国名]
イラン・イスラーム共和国
[出張者]
爲永憲司(慶應義塾大学文学研究科史学専攻後期博士課程)
[概要]

目的 今回の出張の主な目的は、イランにおける史資料の調査及び収集であった。

経過及び成果 派遣期間の前半に滞在していたテヘランでは、テヘラン大学前のエンゲラーブ通りにある主要な出版社・書店(アミーレ・キャビール出版、トゥース出版、ハーラズミー書店、サブズ書店など)及び古書店数軒を訪問し、資料収集をおこなった。テヘラン現代美術博物館の展示カタログなどの図版資料を中心に購入した。

派遣期間の中盤には、イラン北部カスピ海沿岸の諸都市を訪れた。ラシュトでは、グーシュヤール書店その他を訪問し、地方出版物の調査を行った。
特に目立ったのは、ジャンギャリー運動に関する研究書、同市出身の著名な学者であるエブラーヒーム・プールダーウードの回想(執筆者20名弱)などであった。しかし、総量としては僅かなもので、特に出版活動が活発に行われるという印象はなかった。

また、古典文学の研究者で、『ルーダキーと同時代の詩人たち』(テヘラン、1991年)の著者でもあるグーシュヤール書店主アフマド・エダーレチー氏の紹介により、ラーヒージャーン・イスラーム自由大学で行われた史資料に関するシンポジウムに参加することができた。

このシンポジウムは、ギーラーン地方の歴史研究のための資料の収集・保存・利用に関するプロジェクトの一環として開催されたもので、今回がその第1回であった。
シンポジウムは15時から始まった。まず、ラーヒージャーン・イスラーム自由大学からプロジェクトについての説明があった。それによれば、現在の状況は以下のようなものであるそうである。
19世紀以降のギーラーン地方の歴史の研究にとって不可欠な資料となる文書や写真の多くは様々な場所に散在しており、それらがきちんとした形で保存されることも、研究者や学生に公開されることも実現していない。それ故に、上記の大学を拠点として資料の収集と保存と公開に向けてのプロジェクトが発足した。このような説明の後に、来賓として出席したマヌーチェフル・ソトゥーデ氏の講演を聞いた。講演内容はラーヒージャーンに滞在していた時代の回想が中心で、第二次世界大戦以前のギーラーン地方の人々の生活や、大戦中に侵出してきたソ連軍による被害の模様などが語られた。

続いて、演劇史が専門のフェリードゥーン・ノウザード氏が講演した。ノウザード氏は、自分たちが所有している資料を若い世代の人々に残すことの重要性について熱弁をふるわれた。お二方ともたいへんな高齢にもかかわらず、最後まで席を外されることなく、午後8時過ぎにシンポジウムが終了する直前には再び登壇され、盛大な拍手を送られていた。ソトゥーデ氏の思い出を淡々と語る姿もノウザード氏の雄弁な話しぶりもそれぞれに個性的で心に残るものがあった。続いて、アスガル・ニヤー博士が講演し、研究に思うように資料が利用できなかったこれまでの自身の経験をまじえて、それらが一刻も早く公開され、利用されるようになることへの期待を述べた。
その後も数名の方々が登壇され、ジャンギャリー運動の指導者であるクーチェク・ハーンや辞書の編纂で知られるモハンマド・モイーンなどギーラーン地方出身の著名人に関する資料について、自身の研究や回想などを話した。
休憩時間には、ギーラーン地方の伝統的な舞踊劇やギーラキー語による詩の朗誦といった催しを見聞する機会にも恵まれ、非常に貴重な経験となった。
また、エダーレチー氏のご厚意で、ソトゥーデ氏やノウザード氏をはじめとするギーラーン地方ゆかりの先生方に紹介していただき、親しくその謦咳に接することができたのは望外の幸いであった。

後半は再びテヘランに戻り、研究機関や図書館を訪問した。メッリー図書館では、立憲革命からレザー・シャー期にかけての新聞や雑誌の所蔵状況を確認し、閲覧することができた。現代イラン史研究所では、担当者から同研究所附属の図書館における資料の所蔵状況や利用方法などを詳しく伺うことができた。特に、近現代史の重要資料となる多くの新聞・雑誌が画像走査され、CDとして販売されているという有益な情報を得た。

« »