第11回中央アジアの法制度研究会(2012/6/23)

イスラーム地域研究東洋文庫拠点は、京都外国語大学国際言語平和研究所と共催により、下記の要領で第11回の研究会を開催しました。

日時:2012年6月23日(土)13:00~20:30
場所:京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)

【プログラム】
13:00-13:10 あいさつ(堀川)、参加者自己紹介
13:10-14:00 報告1:堀川徹
※「中央アジア史研究のパースペクティヴ――イスラーム化と近代化――」
14:00-14:10 休憩
14:10-15:40 報告2:磯貝真澄
※「19世紀後半ロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域のムスリム遺産分割」
15:40-16:00 コーヒーブレーク
16:00-17:30 報告3:磯貝健一
※「20世紀初頭の中央アジア・イスラーム法廷における紛争解決過程について」
17:30-18:30 総合討議
18:30-19:00 コーヒーブレーク
19:00-20:30 研究成果論集のための打ちあわせ会議
20:30-    懇親会

【報告】
第11回中央アジアの法制度研究会は、2012年6月23日京都外国語大学国際交流会館4階会議室にて開催された。今回は、アジア諸地域を研究対象とする法学、歴史学の研究者ならびに法律の実務家を含む20名の参加を得ることができ、歴史的側面のみならず現代社会における法の実践の側面からも議論が交わされることになった。また今回と次回の研究会は、10回にわたる本研究会の成果のとりまとめと出版に向けた議論の深化を行うものと位置づけられている。

堀川徹氏の報告「中央アジア史研究のパースペクティブ」は、テュルク化、イスラーム化、近代化という三つの画期をなす要素を切り口に、最新の研究成果を織り交ぜつつ、中央アジア史の全体像を提示するものであった。そして、これまでの研究会の歩みを振り返るとともに、遊牧民地域と南部定住地域の差異、ロシア領トルキスタンとブハラ、ヒヴァの二つの保護国との違い、ロシア内地の改革(司法改革を含む)との連動性という三つの視座から、ロシアの統治下における法と社会を読み解く方向性を確認した。これは本研究会の、とりわけ歴史研究者の側での共通の関心であり、具体的な成果が論集の中で出されていくであろう。

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磯貝真澄氏の報告「19世紀後半ロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域のムスリム遺産分割」は、中央アジアとは異なり、16世紀中葉以降ロシア帝国の統治下に組み込まれたヴォルガ・ウラル地域のムスリムたちのイスラーム法実践を、遺産分割に注目して、オレンブルグ・ムスリム宗務協議会の文書の丹念な検討により明らかにしたものである。本報告は、19世紀後半に初めてロシアの統治に組み込まれた、ないし接することとなった中央アジア南部定住地域のムスリムの法実践との比較の視点を提供するのみならず、ロシア農民の法実践のあり方との比較の視点も提供するものであり、さらにロシア帝国の多文化的な法制度のあり方を、「下から」の視点で逆照射するものとなる。

120623_2磯貝健一氏の報告「20世紀初頭の中央アジア・イスラーム法廷における紛争解決過程について」は、氏がこれまで研究を進めてきた中央アジアの伝統的なイスラーム法廷における裁判の進行および和解のあり方を総合的に分析したものである。ファトワーが裁判の判決にどの程度影響を与えたのか、という点がより多くの事例によりさらに考察されるべきという今後の課題が示されつつも、オスマン朝や他のイスラーム法が施行されていた地域における裁判のあり方との比較と中央アジアの裁判のあり方の位置づけが可能であろう。

120623_3今回の研究会において、3つの論点が興味深かった。①ロシア「内地」と中央アジアにおけるムスリムの法実践のあり方の共通・差異の諸相の解明、②ロシア農民とムスリムの法実践において、ロシア人の判事や行政官たちによって用いられた「慣習obychai」という語で表現されているものの実態、ディスコースへの注目、そして③法実践におけるロシア法とイスラーム法の交錯から見た中央アジア史像の提示である。これらの課題は、本研究会の枠を超えて共有されてもよい研究課題ではないだろうか。

(文責:塩谷哲史)

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