比較教育社会史研究会2012年春季例会「イスラームと教育」 部会(2012/3/25)

東洋文庫拠点は、科研費基盤C「オスマン帝国における教育の連続性と変化(19世紀~20世紀初頭)」及び比較教育社会史研究会と共催で、比較教育社会史研究会2012年春季例会「イスラームと教育」部会を以下の通り開催しました。

[日時] 2012年3月25日(日) 14:00~17:00
[会場]お茶の水女子大学・本館1階会議室(103号室)
[内容]
司 会:秋葉 淳(千葉大学)
報 告:
長谷部圭彦(日本学術振興会)「オスマン帝国における教育改革と西欧モデル-伝播・参照・共時性-」
佐々木紳(東京大学)「多元社会の言論空間と公論形成-19 世紀オスマン帝国の場合-」

なお、前日の3月24日(土)には、比較教育社会史研究会10 周年記念シンポジウム「近現代世界における国家・社会・教育」が開催され、午後の第2部では、拠点メンバーの秋葉による以下の報告があった。

12:30~14:00 第2部 19 世紀の展開
秋葉 淳(千葉大学・東洋文庫)「オスマン帝国における近代国家の形成と教育・福祉・慈善」

[報告]

2012年3月24日・25日お茶の水女子大学において比較教育社会史研究会が開催された。

第一日目の同研究会10周年記念シンポジウムでは、主催者である橋本伸也氏(関西学院大学)が準備した事前ペーパー「近現代世界における国家・社会・教育-『福祉国家と教育』とい観点から-」の提案に対して、秋葉淳氏(千葉大学)が近代オスマン帝国史の観点から橋本氏の提案を補足・展開するというかたちで発表をおこなった。秋葉氏は、橋本氏が主に19世紀西欧における国民国家体制の成立過程と連動した学校教育の変容を取り上げたことをうけて、18世紀後半以降にオスマン帝国が実施した福祉・教育分野に関わる諸改革に着目し、オスマン帝国なりの近代国家としての形成・展開過程を論じた。とくに秋葉氏が注目したのは、1、国家として人口問題への関心、2、軍制改革と学校、3、国家および宗教共同体と学校教育、4、ワクフ制度も含めた慈善活動、といった領域における変容の諸相であった。そこからオスマン帝国が近代において、多宗教・多民族集団を抱える独自の帝国的社会編成を保ちつつも、国制や社会のレベルにおいて西洋的な知と技術も導入しながら国家の形成・展開を果しえたことについて説き及んだ。

第二日目の午後には「イスラームと教育」部会において長谷部圭彦氏(日本学術振興会特別研究員PD)と佐々木紳氏(東京大学特任研究員)がそれぞれ発表をおこなった。イスラーム諸地域の学校教育の歴史研究に携わる若手主体のこの部会では、これまでもオスマン帝国、ロシア帝国、アフリカ植民地地域に関する研究発表が組織されてきたが、今回はとくに19世紀のオスマン帝国に特化した発表内容となった。

最初の発表者である長谷部氏は、近代までのオスマン帝国における内政・外交状況を振り返りながら、帝国のタンズィマート期の教育改革について論じた。そこでは主に、オスマン帝国が西欧をモデルとして進めた教育改革について、1、学校における教授科目、2、義務教育制度、3、学校設置義務、といった側面がまとめられた。そのうえで長谷部氏は、オスマン帝国が法的・制度的レベルにおいて、近代西欧に由来する教育システムを自らの国家的在り方にあわせてとりこみながら、教育システムを組織していったと強調した。

つづいて佐々木氏は、多言語・多文字文化に立脚したオスマン帝国のジャーナリズムとそこでの言論空間の在り方について論じた。特に佐々木氏が注目したのは、オスマン帝国国民にむけて多様な言語・文字で刊行された新聞と、それらが読まれる場所であったカフヴェハーネ(コーヒーハウス)とクラアトハーネ(閲読所)の在り方についてであった。そして、新聞の言論媒体としての役割、およびカフヴェハーネでの「公論」の出現にも着目しながら、オスマン帝国における多元的な言論空間形成の可能性について言及された。

以上の研究発表には、オスマン史研究者以外にも、日本史および西洋史研究者、教育学の研究者も参加しており、比較史・関係史的な観点から、専門分野の枠組みを超えた多岐にわたる質問が出され活発な議論が展開された。それは、「イスラームと教育」に関わる研究領域が今後ますます学界での注目を集め発展していく大いなる可能性を感じさせるものであった。

文責:米岡大輔(神戸大学・日本学術振興会特別研究員)

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