第4回オスマン文書セミナー(2011/12/25-26)

イスラーム地域研究東洋文庫拠点は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所と共催で、第4回オスマン文書セミナーを開催しました。

第4回オスマン文書セミナー

◇主催 : 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
◇共催 : NIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点
◇期間 : 2011年12月25日(日)~26日(月)
◇会場 : 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 3階大会議室(303号室)
◇講師:高松洋一(AA研) / 清水保尚(日本大学文理学部非常勤講師)
◇プログラム

12月25日(日)
14:00-14:15 趣旨説明 講師紹介
14:20-16:00 解説「カーディーが授受する文書と法廷記録簿」(高松洋一)
16:20-18:00 講読 I 「カーディーの発行する上申文書(ilam)」(高松洋一)

12月26日(月)
10:30-12:10 講読 II 「証書(huccet)」(高松洋一)
13:00-14:40 講読 III 「法廷記録簿の実例 I」(清水保尚)
15:00-16:40 講読 IV「法廷記録簿の実例 II」(清水保尚)
17:00-18:00 総合討論

[報告]

4回目となる今回のセミナーは、12月25~26日、東京外国語大学アジア・アフリカ研究所で行われ、アラビア語、ペルシア語を専門とする研究者も含めて、初日は22名、2日目21名が参加した。

これまでのセミナーでは、中央の官僚機構によって作成された文書と帳簿類が扱われてきたが、今回は、司法のほかに地方行政を担当していたカーディーによって作成された文書と法廷記録簿が扱われた。25日と26日午前の講師は、オスマン朝の古文書学を専門とする高松洋一氏が担当し、26日午後の講師は、オスマン朝が作成した帳簿類の研究を専門とする清水保尚氏が担当した。

25日は、高松氏による趣旨説明、講師及び参加者の自己紹介に続いて、高松氏が法廷記録簿の書式、法廷記録簿の研究史、そしてカーディーが発行する文書の書式について解説した。高松氏の解説を要約すると以下のようになる。すなわち、法廷記録簿に基づく研究はオスマン朝研究に大きな影響を与えてきた。法廷記録簿は多数現存し、多岐にわたる情報が含まれているが、その様式も残存状態も地域によって様々である。近年トルコでは、史料のマイクロフィッシュあるいはデジタル化が進む一方、史料の実物を手に取って調査することは困難になりつつある。しかしながら、法廷記録簿の複写や刊本を容易に入手できるようになったことは喜ばしい。また、カーディーが発行する文書には、カーディーの判決を含む「上申文書(ilam)」、「証書(hüccet)」が該当するが、この種の文書は受取人の手許に送られるため実物は稀にしか残存していない。

25日午後と26日午前の講読では、2つのカーディーの判決を含む「上申文書」(失脚した元エジプト財務長官の処遇、アレクサンドリアからのコーヒーの輸送や関税に関わる)と、2つの「証書」(軍需品の輸送、ベイレルベイの赴任時に生じた輸送費用の返済に関わる)が取り上げられた。セミナーに先立ち配布されていた史料を参加者が読み上げ、訳し、高松氏はそれらを確認しながら文書の書式と構造について解説した。

高松氏の長年の研究に基づく指摘の数々は興味深いものであった。特に印象深かったのは、文書に残されている折り目やカーディーの印章の向きは文書の封の仕方に由来する。そのため、文書の書式を理解するためには、文書を三次元のものとして把握する必要がある、との指摘であった。

26日午後は、清水氏の指導のもとに法廷記録簿の講読が行われた。ここでもあらかじめ配布されていた史料から5つの記述(税の徴収方法、課税時期の決定方法、スバシュの職務、保証人の扱いなどに関わる)を選び、参加者が読み訳したものを、清水氏が確認し解説を加えた。一見すると無味乾燥な記述の裏に隠された様々な意味を、清水氏は丁寧に解き明かしてくれたため、清水氏の見識の深さともに法廷記録簿の史料的重要性をあらためて認識させられた。

セミナーの総括では、特に法廷記録簿に関わり、保証人の罰則、外国人への言及、日付、署名方法などといった事項について質問と活発な討議が行われ、参加者の法廷記録簿への関心の高さを窺うことができた。

今回のセミナーは4回目ということもあってか、参加者の積極な姿勢と読解能力の高さが大変印象に残った。これもいままでの講師陣の熱意とそれに刺激を受けた参加者の日々の研鑽の賜物であろう。もちろん、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)と東洋文庫の方々の支援なくては、このような機会はありえなかった。末筆ながら関係各位に深く感謝するものである。

文責:今野毅

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