第10回中央アジア古文書研究セミナー(2011/3/24)

東洋文庫拠点は、京都外国語大学国際平和研究所と共催で、第10回「中央アジア古文書研究セミナー」を以下の通り開催しました。

日時:2011 年3月24日(土)11:00~20:30
場所:京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)

【プログラム】
11:00~11:15 開会挨拶(堀川)、参加者自己紹介
11:15~12:30 矢島洋一「18世紀ハザラスプ文書(解説)」
12:30~13:30 昼食
13:30~14:45 矢島洋一「18世紀ハザラスプ文書(文書講読)」
14:45~15:15 コーヒー・ブレーク
15:15~16:30 磯貝健一「フェルガーナのファトワー文書(解説)」
16:30~16:45 休憩
16:45~18:00 磯貝健一「フェルガーナのファトワー文書(文書講読)」
18:00~19:00 夕食
19:00~20:30 来年度の研究計画に関する会議
20:30~  懇親会

【報告】

3月24日、京都で例年通り中央アジア古文書セミナーが行われた。今回でとうとう10回目を数えた。なお、今回参加者は、関西、関東、東海、北海道から27人を数えた。

午前中から午後前半にかけて、矢島氏が18世紀後半に作成されたハザラスブ文書の紹介と講読・検討を行った。まず、ハザラスブの地理的な環境が紹介され、18世紀のハザラスブ周辺地域の政治環境が説明された。そして矢島氏は、ミクロな視点にもとづく研究が欠如していることを述べ、本講習で検討する文書が、研究上の空白を埋める可能性を持つことを指摘した。なお、18世紀中に作成された文書は、中央アジア古文書プロジェクトで収集したもののなかでも最も古い文書であり、中央アジアにおける法的文書形式の変化を知る上でも重要な意味を持つ史料であるといえるという。

komonjoseminar今回の矢島氏の講習では、3通の承認陳述(イクラール)文書を検討した。第一の文書は売買文書、第二の文書は、いわばワクフ地の賃貸借というべき内容であり、第三の文書はある水利権に関して、自分たちに権利がないことを保証する内容であった。講読の中で、これらの文書の外面上の特徴についても解説がなされ、後代の文書との違いなども指摘された。また文書の右下に記される臨席者の署名について、これらの臨席者が職業的な公証人なのか、どのような人が署名をしたのかという点に、質問がなされた。

矢島氏の講習に続き、磯貝健一氏による中央アジアのファトワー文書の講読・研究報告が行われた。今年は、ファトワー文書中にも時折言及される「覚書」という文書を考察することを目的としたものであった。今年は2通のファトワー文書と、そのうち一通の裏面に記された文書を対象とした。磯貝氏が取り扱った第一の文書は、「先買権」の行使の妥当性を巡る案件に関するファトワー文書であった。この文書の中に「覚書」なる文書が係争の中で参照されたことが示唆されている。

第二の文書として、遺産分割後、時間を経て相続取分の請求を行った案件に関するファトワー文書を検討した。この文書には、裏面にも文書が記されている。ファトワー文書本文はペルシャ語で記されている一方、裏面の文書はチャガタイ語で記されている。講読訳出後、磯貝氏は、詳しく状況を説明し、ファトワー文書の裏面に記さているこの文書こそが、「覚書」であることを結論付けた。「覚書」に関する詳しい分析については、氏の論考を待つことにしたい。

中央アジア古文書セミナーは冒頭でも述べた通り今回で10回目であり、主催者の堀川徹先生、磯貝健一先生、矢島洋一先生は、プロジェクトの継続のために相当なご苦労があったと推察される。これまでのご尽力に敬意を表したい。こうした基礎研究のプロジェクトが継続している意義は非常に大きい。今後のさらなる継続・発展を希望すると同時に、参加者を代表して、この機会に得た知見や刺激をもとに、自身の研究も進展させられるように努めたいと思う。

文責:阿部 尚史(日本学術振興会特別研究員)

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