第10回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2018/7/29)報告

第10回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会は、科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表者:磯貝健一)の助成で開催されました。その実施報告を掲載します。

【研究会参加記】

2018年7月29日(日)、奈良女子大学において第10回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が開催され、国内から16名の研究者が参加した。報告は磯貝健一氏(追手門学院大学国際教養学部・教授)によって、「法廷に持ち込まれた「家族」の問題、または、「家族」内の紛争―ロシア帝国領中央アジアのファトワー文書を材料とした試論―」と題して行われた。

報告の目的は、ロシア帝国領トルキスタン地方のフェルガナ州とサマルカンド州のシャリーア法廷に持ち込まれた「家族(=血族+姻族)」関連の紛争について、ファトワー文書を利用してその概要を提示することにあった。報告の要旨は次のとおりである。①両州に由来すると考えられる213点のファトワー文書のうち、「家族」関連の事案を扱う文書は4割強あり、そのほとんどが婚姻解消もしくは相続に関する事案であった。②原告被告双方が同一「家族」の成員である紛争を扱うファトワー文書は、全213点のうちほぼ4分の1を占めた。このことより、氏は、当該地域・時代のシャリーア法廷で処理された紛争のなかで、「家族」関連事案が占める割合は極めて高かったと推定し、当時の人々にとって「家族」が抱える問題を法廷に持ち込むことが日常化していた可能性があるとの暫定的結論を提示した。氏が紹介・解説した「家族」関連事案の具体的内容からは、当該地域・時代に生きたムスリムたちが、彼ら独自の規範に則ったと考えられる、非常に逞しい行動をとっていた様子が垣間見えた。

報告後の質疑応答では、法学、歴史学、文化人類学の分野でそれぞれ活躍する研究者から、ロシア帝国や江戸時代の日本の法制度に関する事例や質問、現代イランや現代ウズベキスタンでの離婚に関する事例、判決台帳の有用性と限界に関する質問などが出され、活発な議論が行われた。

同研究会は科研費(基盤研究(B))「近代中央アジアのムスリム家族とイスラーム法の社会史的研究」(研究代表者:磯貝健一)による研究活動の初年度第1回目の会であり、研究報告後には、これまでの研究成果をまとめる論文集の出版準備について話合いが行われ、今後の研究計画についても会議が行われた。同研究会は法学、歴史学、文化人類学の研究者や法曹関係者から直接意見を得られる場であり、他分野の見地から論の補強が可能となるという強みを持っている。今後も多角的な議論が行われることを期待したい。

(文責:中村朋美)

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