第11回中央アジア古文書研究セミナー
以下の要領で、京都外国語大学国際言語平和研究所とNIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点との共催により、第11回「中央アジア古文書研究セミナー」を開催しました。
【日時】:2013年3月21日(木)~22日(金)
【場所】:京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)
【プログラム】
■3月21日(木)
13:30~13:45 開会挨拶(堀川)、参加者自己紹介
13:45~15:25 矢島洋一「上奏書」(文書解説・講読)
15:25~15:45 コーヒーブレーク
15:45~17:30 矢島洋一「上奏書」(文書講読)
18:00~ 懇親会
■3月22日(金)
10:30~12:30 磯貝健一「ロシア領トルキスタン地方における上訴関連のファトワー文書」(文書解説・講読)
12:30~13:30 昼食
13:30~15:00 磯貝健一「ロシア領トルキスタン地方における上訴関連のファトワー文書」(文書講読)
15:00~15:20 コーヒーブレーク
15:20~16:00 総合討論
【概要】
2013年3月21、22日の二日に亘り、毎年恒例の中央アジア古文書セミナーが、京都外国語大学で開催された。通算11回目となる今回のセミナーには、学部生三人も含み合計37人を数えた(過去最多であるという)。またテヘラン大学文学部歴史学科のマンスール・セファトゴル教授と同大図書館写本室室長のスーサン・アスィーリー博士も参加した。今年は、例年扱っているファトワー文書に加えて、やや趣向をかえて上奏書arza-dashtを取り上げることになった。
第一日目(21日)は、矢島洋一氏による上奏書に解説と講読が行われた。
今回取り扱う上奏書は、ブハラ・アミール国で作成されたもので、ペルシャ語(タジク語)で記されている。この文書には日付が記されていないが、書体等から19世紀後半から20世紀初頭に属するものであるという。この上奏書の文体上の特徴、史料的な重要性に関する解説がなされた。上奏書は、全般的に非常に華美な文章が連ねられており、肝心の要点がやや分かりにくい。またこうした上奏書が、どのような目的でいかなる背景で記されたのか捉えにくいので、史料としての取り扱いに注意を要する点があることが指摘された。
第1文書は、ハラージュの取分を記した台帳が紛失したため、再度目録(写し?)を作成するという内容のカーディーによる上奏書である。当時カーディーが徴税業務にどのように関わっていたのか、差出人はカーディーか第三者か、といった疑問も指摘された。
第2文書は、税の納付に関連するものである。前出文書と同じカーディーが登場した。
第3, 4文書は、献上品(第3文書衣服等:第4文書メロン)への添え状と思われる。
講読後の質疑において、主として上奏書の書式・文体やこの文書の作成・受領に関して他地域(イラン、オスマン朝、アラブ、大清帝国)との比較の観点から話し合われた。また、ロシア統治期におけるブハラの文書行政の変化の可能性についても議論がおよんだ。
二日目(3月22日)には、まず磯貝健一氏により、イスラーム法による裁判制度とロシア統治期の中央アジアの司法制度について詳しく解説がなされた。今回取り上げたファトワー文書は、ロシア統治期のサマルカンド周辺で記されたものであるという。
第1文書は、遺産の取分を巡る上訴審に際して提出されたもので、原告側に立って出されたファトワー文書である。上訴審でもファトワー文書が発給されていたことを示している。
第2, 3文書は、一審敗訴側から、上訴審に際して求められたファトワー文書である。ロシア統治期には、一般的に上訴審の判決が覆ることはほとんどなかったとされるが、この文書はその問題を考える上で重要な可能性を秘めているという。
第4文書は、裏面に判決が記された珍しいファトワー文書であり、飲酒による暴行事件に関する上訴審に関連した文書であった。なお、ロシア治下で作成された裁判判決台帳を参照すると飲酒に関わる案件は数多くみられるという。
講読後の質疑では、上訴審の意義や飲酒に関わる刑のあり方について、また、大清および東トルキスタンにおける訴訟制度との比較に関しても議論がなされた。東トルキスタンは国家の法とイスラーム法の共存が見られるため、ロシア統治期の中央アジアと類似点が見られることにも話題が及んだ。
中東・中央アジア史の基礎研究強化に大いに貢献している本セミナーの意義は大きい。本研究セミナーの開催に尽力されている堀川徹先生、磯貝健一先生、矢島洋一先生に改めて深甚なる感謝をするとともに、今後もこの機会が継続されることを強く期待したい。
(文責:阿部尚史)
(2013年3月31日更新)