アラビア文字資料司書連絡会(2011年度)

3月1日、東洋文庫2階講演室において、平成23年度アラビア文字資料司書連絡会を開催しました。

参加機関(順不同):国立情報学研究所、大阪大学附属図書館、国立国会図書館関西館、東京外国語大学附属図書館、東北大学附属図書館、早稲田大学図書館、慶應義塾大学三田メディアセンター、東京大学文学部・大学院人文社会研究科図書室、NPO法人図書館支援機構、アジア経済研究所図書館、東洋文庫研究部イスラーム地域研究資料室

[日時] 2012年3月1日(木) 13:00~16:00
[会場] 東洋文庫2階講演室
[プログラム]
13:00 拠点代表挨拶(三浦徹)
13:10 東洋文庫拠点報告(徳原靖浩)
13:30 NII報告「CiNii BooksとNACSIS-CATの正規化処理について」(藤井眞樹)
13:50 国立国会図書館関西館報告「国立国会図書館の業務基盤システムのリニューアルと新検索サービスについて」(林瞬介)
14:10 各機関の報告(検索リテラシーの実施状況について)、IAALより情報検索リテラシーについての報告
15:00 アラビア文字の正規化処理について要望案のまとめ
15:10 書庫見学

[報告]

今回の司書連絡会では、昨年7月に東洋文庫拠点で行った「アラビア文字資料を使って論文を書く学生のためのリテラシーセミナー」の報告と、そこで得られた課題にもとづき、イスラーム地域の研究を行う機関等の図書館において、学生・教員・利用者に対する特殊文字資料の検索・利用者教育の現状について、また、国立情報学研究所のCiNii Books、国立国会図書館の新NDL-OPAC、国会図書館サーチなど、新たな検索サービスが現れている中で、検索方法に今後いかなる変化が起こるかという点をテーマに、各機関に報告をお願いした。

まず、東洋文庫拠点からは、リテラシーセミナーの動機、必要性について、昨年7月に行われたセミナーの資料を用いながら説明を行った。中でも、検索を行う上で重要な、検索インデックスキーの正規化処理については、通常利用者が意識していない点であるために、正しく検索したつもりがなぜ資料がヒットしないのかが分からないという点を指摘し、また今後リテラシーセミナーを行う上で、CiNii Books等の新しい検索システムにおいて検索方法が変わってくるのではないか、と問題提起を行った。

NII藤井氏からは、昨秋にリリースされたCiNii Booksと、特殊文字の正規化についての報告が行われた。CiNii Booksの誕生に至る動機として、モジュール化、軽量化、クラウド対応が挙げられた。CiNii Booksでは、従来Webcatで検索対象となっていなかった注記(NOTE)フィールドの内容による検索や、件名(SH)や分類(CLS)フィールドだけでも検索でき、また、書誌をEndnoteなどの文献管理ソフトのフォーマットでエクスポートできるようにするなど、より利用者を意識したシステムであることがうかがわれた。

また、アラビア文字等を含めた所謂「特殊文字」の正規化の問題について、正規化システムの改修計画、またこれまでに公開された正規化の原則と具体的な一覧をまとめた「NACSIS-CATにおける正規化処理について」の作成・公開などの予定について報告があった。

続いて、国立国会図書館の林氏より、本年1月にリニューアル公開されたNDL-OPACと、新たに始まった国会図書館サーチについて報告が行われた。新しいNDL-OPACは書誌データフォーマットにMarc21を採用し、文字コードにUnicodeを採用することで、アジア言語OPACや雑誌記事索引との統合を実現し、また、書誌情報提供サービスや、OPAC検索画面からの閲覧・複写申込、利用状況確認などの新しい機能が実装されている。

一方、新しい検索サービスである国会図書館サーチは、NDL-OPACよりも一般利用者向けのサービスフロントとなることを意図して設計されており、国会図書館の所蔵情報やデジタルコンテンツに加え、他機関の所蔵資料の書誌データや、国会図書館や他機関が発信しているレファレンスなどの調べ方案内の情報、他機関が提供するデジタルアーカイブなどの外部リソースを、一括して検索することができ、また、APIを通じて検索サービスを外部提供することなど便利な機能を多く備えている。

CiNii Books、NDLサーチとも、部分一致検索の採用、外部サービスやSNSとの連携など、より一般利用者のニーズに対応したものとなっており、今後の図書館等のOPACの方向性を示唆しているように感じられた。

引き続き、各機関から、リテラシーセミナーの実施状況や、学生・教員・職員・利用者に対して検索方法をいかに教えるかという点についての報告に移った。全般的に、一般向けの検索リテラシーを、新学期の初めあるいは年間の授業で1回などの頻度で行っている機関が多く、アラビア文字等の特殊資料の検索方法について個別にレクチャー等を行っている機関はない。アラビア文字資料の利用者数が少ないため、利用者の照会に応じて必要な情報を与えることで対応している機関が多いようである。

また、大半の機関で、図書をある程度購入したり、寄贈図書を受け入れたりしているが、整理については予算や人員の問題などがある点が改めて確認された。

最後にNPO法人大学図書館支援機構からは、リテラシー教育の理論面についての報告があり、改めてリテラシーの重要性が認識されるとともに、最終的には情報リテラシーを「教えなくても良いもの」とするための、ユーザライクな検索システムのあり方が強調された。

その後、NACSIS-CATにおけるアラビア文字およびアイン、アリフの翻字に用いられる記号の正規化の問題について、意見交換を行った。アラビア文字の正規化で問題となっていることの一つが、ユニコード上で別の番号が振られているアラビア語とペルシア語のカーフ文字(U+0643, U+06A9)である。キーボードで入力する際、どちらの文字が使われるかはIMEに依存しているため、アラビア語とペルシア語では一見同じكتابという単語を入力しても異なる単語と見なされる。また、固有のIMEを持たないオスマン語(慣習的にペルシア語キーボードを用いることが多い)の場合は、作業者によってばらつきが生じかねない。

アイン・アリフの翻字に用いられる記号は、従来、NACSIS-CATではBrillの印刷物に見られるようなHalf Ring(U+02BE,U+02BF)を慣習的に用いてきたが、どの文字を使うかは文字コードレベルで規定・明文化はされていなかった。米国議会図書館(LC)がある時期からU+02BB, U+02BCというアポストロフィ系の文字を採用したことで、USMarc等参照レコードから流用作成された書誌において混乱が生じている。これらの点について、主にアラビア文字資料の書誌レコードを多く作成する機関の間で活発な意見が交わされ、その結果は、NIIで予定されている正規化システム改修に反映される予定である。

全体として、今後のOPACの方向性を感じさせるNIIと国会図書館の報告に加え、正規化処理の改修によるアラビア文字資料の検索の効率化が期待されるなど、実り多い連絡会となった。次世代OPACの動向,リテラシーセミナーの実施状況、正規化の問題についての報告や議論は、今後の検索のあり方やその教授法を考える上で大変参考となるものであり、次回の情報検索リテラシーセミナーに活用したい。

(文責:徳原靖浩)

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