第3回オスマン文書セミナー(2010/12/22-12/23)

イスラーム地域研究東洋文庫拠点では、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)と共催で、中東・イスラーム研究教育プロジェクトの一環として第3回オスマン文書セミナーを開催しました。

中東イスラーム研究教育プロジェクト第3回オスマン文書セミナー
[主催] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
[共催] NIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点
[期間]2010年12月22日(水)~23日(木)
[会場] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所3階大会議室(303号室)
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1
http://www.tufs.ac.jp/common/is/university/access_map.html
http://www.aa.tufs.ac.jp/location_j.html
[講師]  高松洋一(AA研) 齋藤久美子(AA研ジュニア・フェロー)

[プログラム]
12月22日(水)
14:00-14:15 趣旨説明 講師紹介
14:20-16:00 解説「ミュヒンメ・デフテリと勅令草稿について」
16:20-18:00 講読 I 「16世紀のミュヒンメ・デフテリ」

12月23日(木・祝日)
10:30-12:10 講読 II 「17世紀のミュヒンメ・デフテリ」
13:00-14:40 講読 III 「18世紀の勅令草稿」
15:00-16:40 講読 IV 「18~19世紀の「ミュヒンメ・デフテリ」
17:00-18:00 総合討論

[概要]
3回目となる今回のオスマン文書セミナーは、12月22、23日、東京外国語大学アジア・アフリカ研究所で行われ、初日は16名、2日目は22名が参加した。
今回は重要な勅令の抄録簿であるミュヒンメ・デフテリ、勅令作成過程で作成された勅令草稿やその写しなどの文書群について報告、講読そして討議がなされた。

初日はまず、今回扱う史料について、髙松洋一氏が以下のような報告をされた。
ミュヒンメ・デフテリを明確に定義することは難しい。しかし16-20世紀の記載内容と作成保管状況の歴史的変遷を検討すると、特定の事項に特化せず、様々な事項を勅令のフォーマットで記録し続けていったことがうかがえ、この点がミュヒンメ・デフテリの大きな特徴と言える。
残存するミュヒンメ・デフテリは、主に首相府オスマン文書館に保管されており、年代的に切れ目なく残存しているわけではないが、今後新史料が見出される可能性も否定できない。
ミュヒンメ・デフテリの機能と作成状態については、18世紀以降の膨大な勅令草稿を利用検討し、さらに考察を深めることが望まれるが、ミュヒンメ・デフテリには、勅令正文テキストにはない、勅令を持参する人物の名前、書記の名前やイニシャル、他の行政部局への通知などといった情報が含まれており、オスマン帝国の最高決定を知るために不可欠の史料と位置づけられる。
勅令草稿およびその写しといった文書群は、これまで古文書学で取り上げられたことがなかったが、検討の結果、残存するこれらの文書群は主に18世紀以降に作成されたものであり、ミュヒンメ・デフテリが現存していない勅令テキストに関わる事例も含まれていることが明らかになった。また、大宰相による点検の記録、作成理由への言及などがみられることから、勅令正本と比較検討することで、これらの文書群の機能はもちろん、勅令の作成過程も明らかになろう。
以上の報告を踏まえて、髙松氏の指導のもと18世紀のミュヒンメ・デフテリの講読がなされ、その後の討議ではミュヒンメ・デフテリの日付、製本状態などについて議論がなされた。

2日目は、前半は齋藤久美子氏の指導のもと16-17世紀の非ムスリムに関わるミュヒンメ・デフテリの叙述の講読が、後半は髙松洋一氏の指導のもと18-19世紀の勅令草稿の講読がなされた。
そして総合討論では、書記官長の役割、勅令の送付方法、文書作成保管部局の役割などについて活発な討議が行われた。
髙松氏のように、16世紀から20世紀までのミュヒンメ・デフテリを通事的に検討分析するとともに、勅令の作成に関連する文書類を網羅的に検討した研究者は、世界でも希有であり、貴重な研究成果を開陳していただき、大変刺激になった。
また参加者全てが髙松、齋藤両氏の講読そして討議に積極的に参加されており、今回のセミナーが、オスマン帝国史研究のみならず、他の分野の参加者にとっても興味深く、有益なものであったことがうかがえた。今後もこのセミナーが続くことを切に望むものである。

文責 今野毅(札幌学院大学及び北海学園大学非常勤講師)

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