第2回オスマン文書セミナー(2009/12/20-12/21)

イスラーム地域研究東洋文庫拠点では、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)と共催で、中東・イスラーム研究教育プロジェクトの一環として第2回オスマン文書セミナーを開催しました。

中東イスラーム研究教育プロジェクト第2回オスマン文書セミナー
[主催] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
[共催] NIHUプログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点
[期間] 2009年12月20日(日)~21日(月)
[会場] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所3階大会議室(303号室)
〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1
http://www.tufs.ac.jp/common/is/university/access_map.html
http://www.aa.tufs.ac.jp/location_j.html
[講師]  高松洋一(AA研) 齋藤久美子(AA研ジュニア・フェロー)

[概要]
第2回オスマン文書セミナーは、東京外国語大学アジア・アフリカ研究所にて、12月20日、21日の2日間にわたって行われた。両日あわせて21名の参加者があった。
今回のセミナーでは、勅令とルーズナームチェ台帳という2種類の文書・帳簿が扱われ、前者を髙松洋一氏が、後者を齋藤久美子氏が担当された。それぞれ、講師による解説の後に実例の講読が行われ、最後に総合討論が行われた。セミナーは、滞りなく、ほぼプログラム通りに進行した。

講読に先立って行われた両講師の解説では、それぞれの形態的特徴、行政上の機能、現在までの保管状況、作成の過程とその担い手たち、内容の構成と様式など、これらの史料を扱う上での必要事項が網羅的に説明された。オスマン文書に限らず、文書史料は、特殊な書体、文体のために門外漢にはとっつきにくい印象が否めない。しかしながら、両講師による解説は、簡明かつ体系的にまとめられており、時に具体例を混じえながら丁寧な説明が与えられ、これらの史料を初めて扱う者にとっても理解しやすいものとなっていた。
勅令文書の講読においては、イスタンブルの首相府オスマン文書館(以下、BOA)に保存される勅令正文のうち3例がテキストとして扱われた。ルーズナームチェ台帳は、やはりBOAに所蔵されたものから、いくつかの類型ごとにそれぞれ1~2例、計10例のテキストが選ばれ、講読が行われた。

総合討論の時間には、オスマン朝史あるいは文書研究を専攻する参加者から専門的な質疑や意見が提示される一方、他分野の研究者からも積極的な発言がみられ、活発で内容の濃い意見交換が行われた。その内容は、文書の形態や様式、文体に関わる具体的な質問から、他の文化圏の文書との共通点や相違点に関する意見まで、多岐に渡った。
とりわけ、報告者にとって印象的であったのは、オスマン朝国家の行政システムの変化や、オスマン文書の史料としての価値に関わる、より広い視野、高い視点に立った意見のやりとりが多くなされた点である。あらためて、文書史料が内包する情報の多様さ、豊富さに驚かされた。
また、総合討論の一環として、髙松氏からは、文書の「裏を読む」重要性が提示された。ここで言う「裏」とは、隠された意味ということではなく、まさに文書の用紙の裏面のことである。ここには文書の作成や保管にたずさわった者たちのメモ書きが付されており、時にその内容は重要な意味を持つという。実際に髙松氏は、今回のテキストとされたBOA所蔵の勅令正文の「裏」を検討され、これらの文書の表の文面だけを見て史料として利用することの危うさを指摘された。

今回のセミナーにおいては、前回のセミナーとは別のタイプの文書・帳簿が扱われた。それ故、前回から続けて参加した者は、オスマン文書に関する知識をより広くし、その理解をより深くすることができた。このセミナーが毎年の恒例行事となり、継続的にオスマン文書に関する知識を習得しうる場になることを希望しつつ、本報告を閉じさせていただく。

塩野崎 信也(京都大学大学院文学研究科博士課程)

[プログラム]
12月20日(日)
14:00-14:15 趣旨説明 講師紹介
14:20-16:00 勅令の構造とディーヴァーニー書体
16:20-18:00 勅令実例の講読112月21日(月)
10:30-12:10 勅令実例の講読2
13:00-14:40 ルーズナームチェ台帳について
15:00-16:40 ルーズナームチェ台帳の講読
17:00-18:00 総合討論

塩野崎 信也(京都大学大学院文学研究科博士課程)

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