「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」第10回研究会(2009/10/18)
研究班「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」は、オスマン民法典(メジェッレ)のアラビア語訳の講読および翻訳作成を最終目的として、研究を進めています。
下記日程にて第10回目の研究会および会合を行いました。
[日時] 2009年10月18日(日) 13:00~18:00
[会場] 東洋文庫イスラーム地域研究資料室
会場アクセス ※東洋文庫本館とは別建物です。ご注意下さい。
[道順]駒込駅から本郷通りを六義園方面へと直進し、ampmを通過したあたりにあるビルです。 1階に日本直販が入っています。入口は、建物の右側裏手にあります。やや判りにくいので、迷われたときには事務所までご連絡下さい。
[報告] メジェッレ翻訳案 第163条~
[概要]
今回の研究会では,メジェッレ163条から180条までの翻訳が行われ,主に売買の成立要件(第1章第1節)及び申込みと承諾の合致(同第2節)の検討が行われた。
その中身についてみると,申込みと承諾に用いられる文言(169条~172条),方式(173条~175条),申込みと承諾が合致したといえるための要件(第2節・177条~180条)について,条文が具体例を挙げながら詳細な規定があった。
これは,私法の一般法として抽象化が進んだ西欧流の民法典とは異なる特徴である。
例えばメジェッレでは,売買の成立要件として,売買は申込と承諾で成立するとする167条や,申込と承諾の要件に関する168条を規定するのはともかく,申込と承諾は原則として動詞の完了形でなければならないとする169条,未完了形のときは場合によるとする170条,171条,命令形では原則として売買は成立しないとする172条等,申込と承諾の文言に用いられる時制について具体例を挙げつつ詳細に規定している。
これに対し,フランス民法,ドイツ民法等の影響を受けて成立した日本民法では,売買の成立要件について「売買は,当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し,相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって,その効力を生ずる。」(民法555条)とあるのみであり,要するに売買の目的物(「ある財産権」)と代金について合意があれば良いとするだけである。そこに,何の方式も要求しない,きわめて抽象的な規定となっている。
もちろん,日本民法でも,メジェッレの171条が規定するような,「いずれ私は売る」という形では売買の予約にすぎず,売買契約そのものは成立しないと解されている。しかし,どのような文言を用いれば売買の予約であり,どのような文言だと売買契約が成立するのかについては,もっぱら解釈に委ねられている。
日本民法は,一般的規定を条文の最初に設け,特殊な規定を後に設けるパンデクテン方式を採用している。その意味で,日本民法は法令の一般性を追求した法典ということが可能だろう。これに対し,今回の研究会で翻訳したメジェッレの規定振りは,具体性を追求しているという評価が可能だろう。日本民法とメジェッレは,ほぼ同時期に成立している。同時期に成立した民法典が,このように対極的な方向性を指向していることは興味深い。
文責 田﨑博実(弁護士)
(2009年11月16日更新)