第5回「オスマン帝国史料の総合的研究」研究会(2009/3/7)

研究班「オスマン帝国史料の総合的研究」では、末期オスマン帝国の歴史家・法律家アフメト・ジェヴデト・パシャによる『覚書 (Tezakir)』の講読および翻訳作成を最終目的として、研究を進めています。

下記日程にて研究会を行いました。
第5回研究会
[日時]  2009年3月7日(土) 13:00~17:30
[会場] 東洋文庫イスラーム地域研究資料室  会場アクセス

※東洋文庫本館とは別建物です。ご注意下さい。
道順: 駒込駅から本郷通りを六義園方向へと直進し、ampmを過ぎてすぐの辺りにあります。1階に日本通販の店舗が入っています。入口はビルの右手裏側にあります。

[テキスト]ジェヴデト・パシャ『覚書 (Tezakir)』第1巻、26~34頁
[翻訳担当者]黛秋津・藤波伸嘉・上野雅由樹
[概要]
昨年6月より始まった、アフメド・ジュヴデト・パシャ著『覚書』の翻訳を目的とする東洋文庫拠点研究班「オスマン帝国史料の総合的研究」研究会の2009年最初の会合が、3月7日に開催された(参加者は10人)。これまでに4回行なわれたこともあり、参加者のあいだにも、研究会の進め方に関して一定のルールが出来上がりつつある。すなわち、各翻訳担当者は研究会の2週間前には参加予定者にメールで試訳を送信し、参加者は事前にそれぞれの試訳を検討したうえで、研究会当日に互いの意見を検討し、訳文を確定させていく、という段取りである。また、重要と思われる用語や主要人物の初出箇所ではそれらの概略や略歴を注記する、というこれまでの話し合いで決められた原則に従って、各翻訳担当者の尽力により、十分な注釈が示された。

今回の翻訳箇所での話題は、政治家や官僚の権勢争い、クリミア戦争の戦況、イスタンブルでの諸事件、古都ブルサを中心とする地震の被害、など多岐にわたっていた。『覚書』という書名どおり、同時代の時事問題を可能なかぎり書き残そうとするジェヴデトの姿勢がうかがえた。

訳文の確定作業は、翻訳担当者のそれぞれの仮訳に対して幾つかの瑣末な訂正があったものの、大きな誤訳もなかったために概ね順調に進行したといえる。ただし、意見が分かれ、十分な話し合いが行われた箇所は幾つかあった。たとえば、「秘密の商社(結社)」、「印章照合問題」、「イズミルやベイルートの税関(関税)の閉鎖(引き下げ)」などは、同時代の政治や経済の状況を踏まえなければ翻訳が困難であった。ほかにも、年号に関する予言じみた、日本人には馴染みが薄い「学問」の翻訳や、皇軍(兵士)か帝国軍(兵士)か、などの訳の確定がとりわけ活発に議論された。
地名の表記法や一部の官職の訳語などいまだ確定していない課題は残されているが、これらも回を重ねることにより、いずれは解決するものと思われる。

文責 吉田達矢(明治大学大学院博士後期課程文学研究科)

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