東洋文庫拠点共催「中東イスラーム研究プロジェクト第2回ペルシア語文書学セミナー」 (2007/7/14-7/16)

東洋文庫拠点と共催で、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)は、中東イスラーム研究教育プロジェクトおよび共同研究プロジェクト「ペルシア語文化圏の歴史と社会」の一環として、第2回ペルシア語文書学セミナーを開催しました。

このセミナーのために、イラン・イスラーム共和国よりオミード・レザーイー氏(ワクフ慈善庁文書専門員)を招聘しました。レザーイー氏は『イラン・ワクフ文書総目録』(第1巻ファールス州、第2巻ケルマーン州)、『51通の訴願状と法的勧告』(文書翻刻)、『ペルシア語文書学研究』(論文集)などの編書、著書があり、イランに所蔵されている法廷文書をもっとも知悉している方です。

[主催] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
[共催] NIHU研究プログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点
[日時] 2007年7月14日(土)~16日(月・祝)
[場所] 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 3階マルティメディア会議室(304号室)
http://www.tufs.ac.jp/common/is/university/access_map.html
http://www.aa.tufs.ac.jp/location_j.html
[講師] オミード・レザーイー氏(ワクフ慈善庁文書専門員) 近藤信彰氏(東京外国語大学AA研)

[概要]
2007年7月14日(土)から16日(月)に、東京外国語大学において第2回ペルシア語文書学セミナーが行われた。講師のオミード・レザーイー氏はイラン・イスラーム共和国ワクフ慈善庁の文書専門員でイラン各地の文書を扱った経験を持ち、30代半ばで既に多くの文書集を校訂・出版している。

台風接近による悪天候にも関わらず、初日には10名強の参加者が集まり、大きな遅れもなくセミナーが始められた。まず、主催の東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の近藤信彰氏から、本会がNIHU地域研究プログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点との共催である旨などが説明され、レザーイー氏の紹介、参加者の自己紹介が行われた。それからカージャール朝期の売買契約文書の構造を説明するプリントが配付され、事前に配付されていた文書を実際に読み始めた。文書1枚につき1-数名の担当者が本文を朗読し、レザーイー氏が再度全文を朗読してから担当者が日本語訳を行って文書の内容を検討、その後余白の書き入れを読み、最後に人物の特定に欠かせない印章をレザーイー氏が解説するという手順が取られた。

レザーイー氏は参加者自己紹介の際に全員の名前を控えて自ら担当者を指名するなど、会場の緊張度は高かった。手書き文字の解読の難しさに加えて、「ペルシア語」文書といいながら法関係のアラビア語の引用がかなり多いため読解は相当に遅いペースで進み、結局予定していた分量の半分を読了した所で30分遅れの閉会になった。最後に、読了した文書のワープロによる起こしが配付された。

2日目は初日にまして天候が悪かったが参加者数は増加し、セミナー開始時刻もほぼ予定通りであった。初日で経験を積んだため読解のスピードは大幅に早くなり、午前中には初日に終えられなかった分も含めて3枚の売買契約文書を、午後はイランで独特の用いられ方をしていた合意契約文書を2枚とワクフ設定文書を2枚、合計7枚の文書を読了した。多くの地方の文書を扱おうというレザーイー氏の配慮により、様々な書体の文書をまとめて読むという貴重な経験ができた。また、ペルシア語が堪能な参加者の通訳によって、休み時間にもレザーイー氏を交えて活発な議論が行われていた。

最終日の午前中に法的勧告2枚を読み、文書の読解は終了した。午後には20名以上が参加して、イランと他地域の文書を比較する総合討論が行われた。レザーイー氏との通訳は東京外国語大学AA研非常勤研究員の渡部良子氏が務めた。

最初に東洋文庫の磯貝健一氏、東北大学の大河原知樹氏、千葉大学の秋葉淳氏がそれぞれ中央アジアの文書、シリアのアラビア語文書、オスマン朝法廷文書と、今回扱ったイランの文書との共通点や差異についてコメントを行った。特に議論が集中したのはイランの文書がどれほど定型化されているかという点であった。所定の情報を空欄に記入すれば文書が完成するようなひな形が発達した中央アジアやオスマン朝に対し、イランの文書は美しさにも配慮した、かなり自由な文章で作成されていたということである。

さらに、印章の用法や、法廷のあり方や国家による文書の管理、ウラマーの教育法など、文書が作成された社会背景にまで踏み込んだ興味深い議論が交わされた後、近藤信彰氏の挨拶で3日間の密度の濃いセミナーが締めくくられた。

[プログラム]
7月14日(土)
14:00-14:30  講師紹介 参加者自己紹介
14:40-16:10  売買契約文書I
16:30-18:00  売買契約文書II7月15日(日)
10:40-12:10  合意契約文書 I
13:10-14:40  合意契約文書 II
15:00-16:30  ワクフ設定文書 I
16:50-18:10  ワクフ設定文書II7月16日(月・祝)
10:40-12:10  法的勧告
13:10-16:00  総合討論――文書の地域間比較
磯貝健一氏(東洋文庫・AA研共同研究員)
「中央アジアの文書との比較において」
大河原知樹氏(東北大学・AA研共同研究員)
「アラビア語文書との比較において」
秋葉淳氏(千葉大学・AA研共同研究員)
「オスマン朝法廷研究との関連で」

文責 二宮文子(京都大学西南アジア研究室)

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