ブルガリアおよびトルコにおける資料調査
トルコ ブルガリア ロシア・東欧バルカン 中東・湾岸諸国 海外派遣・調査
[期間]
2013年2月5日(火)~2月17日(日)
[国名]
ブルガリア共和国、トルコ共和国
[出張者]
長谷部圭彦(東京大学・研究員)
[概要]
本出張の目的は、オスマン帝国の未刊行史料を多数所蔵していることで知られる、ブルガリア国立図書館(通称キリル・メトディ図書館)に赴き、同館の利用方法や所蔵資料の概要を調査し、こうした情報を本サイトに掲載することによって、イスラーム地域研究のさらなる進展をはかることであった。また、航空機の乗り換えのために立ち寄るトルコのイスタンブルにおいて資料を収集することも、併せて目的とされた。これらは、現地の研究者や司書の方のご協力のもと、当初の予想以上に達成することができた。
ブルガリア国立図書館では、オスマン語史料を有する東洋部門において調査を進めた。1930年代初頭、イスタンブル財務局が管理していたオスマン期の文書群の一部が、「古紙」としてブルガリアに流出し、紆余曲折を経て同館に収められることになったというエピソードは、オスマン史関係者であれば一度は耳にしたことがあると思われるが、その現物へのアクセスは、ブルガリアの研究者を除いて、必ずしも容易ではなかった。その理由は、もちろん地理的なものもあるのだが、一部の分類を除いて、そもそもカタログが手書きのブルガリア語で記されているため、検索がかなり困難であることにも求められよう。こうした状況は、今回の調査時においても同様であり、カタログの網羅的な調査は断念せざるを得なかった。ただ、次善の策として、従来の研究に基づいていくつかの史料を請求したところ、断片的ではあるが貴重な史料を見出すことができた。また、検索の容易な帳簿分類では、タンズィマート初期のシャリーア法廷に関する帳簿をいくつか閲覧・収集し得た。こうした同館の分類方式を含め、その利用方法については、本サイトの「資料館・研究機関ガイド」を参照されたい。
海外に出張するにあたり、資料収集とならんで重要なのは、現地の研究者との情報交換である。出張者は、自身と専門を同じくするMargarita Dobreva氏と面会する機会を得、タンズィマート期の教育政策について立ち入って話し合うことができた。奇しくも同氏は、東洋部門においてかつてアーキビストとして勤務していたため、同館独自の分類方式など、本出張に関わる貴重な情報も、併せて得ることができた。
イスタンブルでは、首相府オスマン文書館、スレイマニエ図書館、アタテュルク図書館、イスラーム研究センターにおいて資料を収集した。首相府オスマン文書館は、以前からキャウトハーネへの移転が計画されていたが、本年(2013年)3月に、ようやくそれが実施されるとのことであった。その正確な日時につき、責任者の一人に直接伺ったところ、「移転の開始日は未定であるが、いずれにせよ、3月、4月に日本から来ることはまったく勧められない」とのことであるので、この春季休暇中の来訪を予定されている方は注意されたい。5月以降の再開についても、今のところ日時は確定していないとのことであった。他方、スレイマニエ図書館とアタテュルク図書館においては、トゥナ州(現在のブルガリア)およびボスナ州(現在のボスニア)の年鑑(sâlnâme)を、可能な限り収集した。両州は、タンズィマート改革のいわばモデル地域であったため、この改革の歴史的意義を考えるうえで、両州の事例は重要である。なお欠落があるとはいえ、他の史料との併用により、当時の両州の様子が、かなり具体的に分かるようになるだろう。なお、スレイマニエ図書館の入口は、有名な豆料理の店(Ali Baba Kanaat Lokantası)の奥へと、若干変更された。
本出張も、多くの方々のご協力のもと遂行することができたが、とりわけ、ブルガリア国立図書館東洋部門において出張者の調査を許可してくださったBoryana Hristova氏、東洋部門閲覧室において様々な便宜をはかってくださったZorka Ivanova氏、貴重な文献や情報を提供してくださった上述のMargarita Dobreva氏に、篤く御礼申し上げたい。
(2013年3月18日更新)