「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」第4回研究会(2009/1/11)
研究班「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」は、オスマン民法典(メジェッレ)のアラビア語訳の講読および翻訳作成を最終目的として、研究を進めています。
下記日程にて第四回目の研究会および会合を行いました。
※会場準備の都合上、あらかじめご一報いただけると幸いです。
[日時] 2009年1月11日(日) 13:00~18:00
[会場] 東洋文庫イスラーム地域研究資料室
会場アクセス ※東洋文庫本館とは別建物です。ご注意下さい。
[道順]駒込駅から本郷通りを六義園方面へと直進し、ampmを通過したあたりにあるビルです。
1階に日本直販が入っています。
入口は、建物の右側裏手にあります。やや判りにくいので、迷われたときには事務所までご連絡下さい。
[報告] メジェッレ翻訳案 第51条~第65条
[担当] 磯貝健一氏
[概要]
第4回研究会では、磯貝氏の試案に基づいてメジェッレ第51条から第65条まで翻訳が進められた。アラビア語訳を中心に、オスマン語の原文、仏訳、英訳、ʻAlī ḤaydarやRustam Bāzによる注釈書をも参照しつつ、12名の出席者により丁寧な検討が行われた。
翻訳一般に言えることであろうが、原文の言い回しに忠実であるべきか、あるいは意味を汲んで分かり易く訳すべきか、しばしば問題となった。また、どこまで法文らしさを追求すべきか、どれだけ日本の法学用語を意識すべきかという、法典の翻訳に固有の課題もあった。二重否定と肯定は一見同じようであるが、証明責任の分配の問題に配慮し、できるだけ原文を尊重するよう提案された。
さらに、第2条から第100条までの法原則(al-qawāʻid al-fiqhīyah)特有の難しさも次第に明らかになってきた。法原則は多種多様な事例に広く適用される一般原則であるため、その規律対象全体をまとめて表現し得る訳語が存在するとは限らないのである。
具体的な議論の結果は以下の通りである。
第51条のsāqiṭ は「放棄された権利」、第55条のmushāʻやshāʾiʻ は「共有財産」、第58条のmaṣlaḥahは「福利」、第64条のmuṭlaqは「無限定な文言」と訳す。
ʾaṣlは、第50条のように「従物(farʻ, tābiʻ)」の対概念として用いられている場合には「主物」と訳すが、第53条のように「代物(badal)」の対概念として用いられている場合には「現物」と訳す。
第64条のnaṣṣ は、第14条のような「啓示の明文」の意味ではなく、契約における明文を指しており、またdalālahと対になっているので、naṣṣ ʾaw dalālahを「明示や黙示」と訳す。
第59条のワクフに対するムタワッリーのal-wilāyat al-khāṣṣahとカーディーのal-wilāyat al-ʻāmmahは、私と公の関係にあるものと見て、前者を「私的な後見」、後者を「公的な後見」と訳す。 第60条のʾiʻmāl al-kalāmは、「文言の無視(ʾihmāli-hi)」と対を成すことから、「文言の斟酌」と訳す。
第63条のmā は物・権利・行為など様々に解し得るため、「事物」と訳す。
文責 浜本一典(同志社大学神学研究科博士前期課程)
(2009年1月20日更新)