第7回中央アジア古文書セミナー(2009/03/17)
トヨタ財団研究助成「ウズベキスタン共和国ブハラ市におけるイスラーム法廷文書の収集・保存・集成」により、共催にて「中央アジア古文書研究セミナー」を開催いたしました。
[主催] 京都外国語大学国際言語平和研究所
[共催] NIHU研究プログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点
[日時] 2009 年3月17日(火) 10:50-17:00
[場所] 京都外国語大学 国際交流会館4階会議室
[プログラム]
10:50-11:00 トヨタ財団助成金による古文書の収集・研究活動(堀川徹)
11:00-11:30 ブハラ撮影分文書の内訳(磯貝健一)
11:30-13:00 古文書講読(1)「ブハラの法廷証書」(木村暁)
13:00-14:00 昼食
14:00-15:30 古文書講読(2)「中央アジアのファトワー文書」(磯貝健一)
15:30-16:00 コーヒー・ブレイク
16:00-17:00 質疑応答と総合討議
17:30-19:30 懇親会(別会場)
[概要]
中央アジア古文書セミナーは今回7回目を数える。北海道・東北からも参加者を得て、参加者は約30人を数えた。また、東洋文庫拠点に招聘されているダマスクス歴史資料館のガッサーン・オベイド博士も本セミナーに参加された。
例年、磯貝健一氏と矢島洋一氏が講師を務めていたが、今年は矢島氏に代わり木村暁氏が磯貝氏とともに講師を務めた。
堀川徹氏による研究活動の趣旨説明の後、磯貝健一氏によるブハラでの収集文書の概要説明がなされた。ブハラ文書はペルシャ語により、コーカンド、サマルカンド、ヒヴァからの収集文書に比較して、シャリーア法廷文書の割合が少ないこと、またシャリーア法廷文書の中で、遺産分割文書が大きな割合を占める一方、売買文書が少ないという特徴が指摘された。
その後、木村暁氏により、ブハラの法廷文書に関する詳しい解説がなされた。今回対象となった文書は売買文書、権利放棄文書、訴状である。ブハラ法廷文書に関する全般的な説明がなされた上で、判読例として事前に配布されていた文書を通して、他の収集文書との関連なども踏まえて有益な解説がなされた。解説の後、売買文書と権利放棄文書の実際の講読が行われた。
このうち、売買文書は、講師による関係文書の説明によれば、遺産相続による財産分割後に、財産が復元される事情を見出すことが出来る事例であった。
昼食休憩後も引き続き訴状の講読が行われた。この文書は表面に訴状が、裏面に2つの権利放棄文書が記されている。2通の権利放棄文書はいずれも表面の案件に対応しているが、一つは、表面に記されている問題について全般的な権利放棄を示し、もう一つはより詳細に個々の物品に関する権利放棄を示していることが明らかとなった。
次に、磯貝氏によるファトワー文書の解説が行われた。ファトワー文書は「定型句+状況説明+見解」という組み合わせから構成され、文書の端に、事案に該当する法学書から抜き書きが記される。まず判読例として事前に送付されていた文書の解説がなされた後、実際の講読に移った。
今回取り上げられたファトワー文書は以下の3通である。
- マムラカ地(元来の持ち主がいないため国家所有となった土地。オスマン朝のミーリー地に該当する)に家を建てた人物に対し、その土地を流れる河川の浚渫費用を求めた訴訟の案件(水利を必要としない人に浚渫費用の請求が出来るか、という問題)
- 遺産の持分請求権に関する反訴の案件
- 遺産持分の権利放棄を行った際に知られていなかった新しい遺産を巡る訴訟に関する案件
ファトワーの端に記される、アラビア語の法学文献からの引用部の解読には(とくに文書2,3について)、ダマスクス歴史資料館のガッサーン・オベイド博士による有益な助言もなされた。
一連の古文書の講読解説後、自己紹介をかねて、ガッサーン・オベイド博士により、ご自身が館長を務めるダマスクス歴史資料館の役割とその活動について貴重な報告がなされた。
既述のように中央アジア古文書セミナーは7回を数える。今回矢島氏に代わり木村氏が講師を務めた。このことからも、日本における中央アジア古文書研究の層の厚さと水準の高さがよく理解できる。
このセミナーは、熟練の研究者と若手研究者が混じり、また中央アジアの専門家だけでなく、オスマン帝国史、アラブ史、イラン史、インド史など多地域の専門家が集い、極めて有益な情報を獲得・共有する毎年の恒例行事となっている。研究代表者としてプロジェクトの存続に尽力されている堀川徹氏をはじめ、これまでに講師を務めた磯貝健一氏、矢島洋一氏、木村暁氏に謝意を表しつつ、今後さらなる継続・発展を期待したい。
文責 阿部 尚史(東京大学人文社会系研究科博士課程)
(2009年3月28日更新)