第16回中央アジア古文書研究セミナー(2018/3/18)報告
ウズベキスタン 中央アジア・コーカサス 中央アジア古文書研究セミナー
第16回「中央アジア古文書研究セミナー」を、下記の要領で開催いたしました。
場所: 京都外国語大学国際交流会館4階会議室(No.941)
【プログラム】 司会:磯貝健一(追手門学院大学国際教養学部)
11:00~11:15 挨拶:堀川徹(京都外国語大学国際言語平和研究所)、参加者自己紹介
11:15~12:30 磯貝真澄(京都外国語大学外国語学部)
「19世紀末~20世紀初頭のホラズムにおける権利放棄と婚姻・離婚」①
12:30~13:30 ランチ
13:30~14:30 磯貝真澄「19世紀末~20世紀初頭のホラズムにおける権利放棄と婚姻・離婚」②
14:30~14:45 コーヒーブレーク
14:45~16:00 杉山雅樹(京都外国語大学国際言語平和研究所)
「親族間訴訟に関連するファトワー文書」①
16:00~16:15 休憩
16:15~17:15 杉山雅樹「親族間訴訟に関連するファトワー文書」②
17:15~18:00 総合討論
18:00~20:00 懇談会 京都外国語大学12号館1階「リブレ」
【報告】
第16回中央アジア古文書研究セミナーは、2018年3月18日に京都外国語大学において開催された。本セミナーは、京都外国語大学学内共同研究「ウズベキスタン共和国における博物館収蔵物と地域課題に関する実践的研究」(研究代表者:堀川徹)との共催である。
今年は学部生、修士課程の学生など、若手を含めて参加者は18名であった。司会担当の磯貝健一氏(追手門学院大学)による進行の下、堀川徹氏による挨拶と、参加者の自己紹介が冒頭にあり、その後、磯貝真澄氏(京都外国語大学)と杉山雅樹氏(同左)の担当による古文書の講読が行われた。
磯貝真澄氏は19世紀末~20世紀初頭のホラズムにおける権利放棄と婚姻・離婚に関する文書を取り上げた。使用した文書はウベズキスタン共和国ヒヴァ市の博物館・保護区「イチャン・カラ」所蔵の4点であり、全てチャガタイ・テュルク語で書かれている。用語の概説の後に1枚目の文書を講読し、権利を放棄する旨を宣言する際の定型文を確認した。その上で、権利の放棄の文言が記載された婚姻・離婚に関する残りの文書を読み解いた。婚姻を、男性側の婚資金の支払い義務と女性側の夫に対する服従義務が対価関係にある契約行為と見なす、ハナフィー学派の規定を踏まえた文書であり、担当者と出席者の間では、文法的問題についてだけでなく法学的側面からも活発に意見が飛び交った。
杉山雅樹氏は、親族間訴訟に関連するファトワー文書を取り上げた。使用した文書はウズベキスタン共和国アンディジャン州立郷土博物館所蔵の1点と同国サマルカンド州立博物館所蔵の2点の計3点である。なお、使用した文書の本文はペルシア語、法的根拠とされた法学書の引用部分はアラビア語で書かれている。相続に関するファトワー1点を講読した後に、磯貝氏の担当読内容とも関連する、婚姻・離婚に関するファトワー2点が読み進められた。婚姻契約における妻側の不利を修正するため、婚約時に離婚が成立する条件を確認する旨、離婚の行使権を妻に委託する旨が記された文書であり、ファトワーに関する用語やアラビア語的文体になった箇所などの適切な訳語を巡り、磯貝氏の担当時と同様に議論は大いに白熱した。
読解は学生の訳に適宜訂正、解説を挟む形式で行われており、若手にとってこのセミナーは読解能力の鍛錬に非常に有益な機会である。無論、本セミナーの意義はそれだけではなく、それぞれの研究分野で得た知を他の参加者に還元する場という意味合いも持っている。様々な観点から発言がなされた1日を経て、この会が継続することを改めて願ってやまない次第である。
最後になるが、この実り豊かである研究会の企画、実行にあたって尽力なされた堀川徹氏、磯貝健一氏、事務担当として様々な調整を行い、更には当日には講読の担当もされた磯貝真澄氏、そして講読担当の杉山雅樹氏の4名には深く御礼申し上げたい。
(文責:三好航、京都大学文学部西南アジア史学専修4年)
(2018年3月28日更新)