シリアにおける資料収集および調査
[期間]
2006年12月30日~2007年1月10日
[国名]
シリア
[出張者]
柳谷あゆみ(人間文化研究機構/東洋文庫)
[概要]
本出張では、2006年12月30日から2007年1月10日にかけて、ダマスカスのフランス近東研究所(IFPO)を訪問し、また市内で今後の入手困難が予想されるイラクの出版物を中心に調査・収集を行った。
フランス近東研究所(IFPO)は、同研究所は研究機関と研究者及び外交官養成を目的とするアラビア語学習機関、図書室、出版部から成る。
アラビア語学習機関は、少人数制と実践的な授業内容で人気が高く、定員40名前後に対して近年は150人以上が入学を志願するため厳しい選抜状況となっているが、日本人もここ数年は毎年1名程度が在籍している。
同研究所の出版部は、精力的に歴史・文学・考古学分野における成果を出版しており、近年の出版状況を調査し、歴史分野のアラビア語図書新刊を収集するとともに、研究員及び教員に「イスラーム地域研究」プロジェクトの開始とその概要を紹介した。
また、今回の出張期間中に、折よくダマスカスの自宅に滞在されていたウィリアム・メアリ大学アブドゥルカリーム・ラーフェク教授を訪問した。
ラーフェク教授はイスラーム地域研究の招へいで2006年11月に来日し、文献講読集中講義及び講演会を行われたが、オスマン朝期法廷文書について明晰な英語とアラビア語で丁寧に読解法を説いた同教授の集中講義は、専門外である出張者にもわかりやすく、法廷文書の史料としての有用性と傾向、可能性を改めて実感させるものであった。
ラーフェク教授もまた今回の来日によるわが国研究者及び大学院生との交流を非常に喜び、今後の協力に向けて努力を惜しまないと約束くださった。
イラクの出版物については、イラク戦争後の混乱で入手が困難になり、エジプトではすでに価格高騰の報を仄聞している。
隣接国であるシリア、ヨルダンでもイラクの出版物の価格は湾岸戦争以来上昇しているが、入手状況は比較的良好と思われるため、ダマスカスでの入手状況を調査し、早期の分散が予想される逐次刊行物の収集を開始した。
今回は、イラクの歴史・考古学術雑誌「マウリド」及びバグダード大学文学部紀要、そしてモスル大学文学部紀要「アーダーブ・アッラーフィダイン」の創刊号から最新号までを一括購入した。
殊に「マウリド」はその有益性が一部研究者の間で知られていたものの国内ではごく限られた所蔵に留まっていたので、今回の購入についてすでに数件の照会を受けている。
これら逐次刊行物については、HPにコンテンツ(目次)を公開し、利用者の用に応えていく予定である。
イラクの混乱はただ心を痛めるばかりであるが、学術資料の散逸、不正流出を防ぐために、あくまで正当な取引による、これらの資料の収集は今後も精力的に継続すべきであろう。
(2007年1月17日更新)