「シャリーアと近代」平成23年度第3回(通算第24回)研究会

イスラーム地域研究東洋文庫拠点研究班「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」 は、科研費(基盤B)「イスラーム法の近代的変容に関する基礎研究:オスマン民法典の総合的研究」と共催で、オスマン民法典(メジェッレ)のアラビア語訳の講読および翻訳作成を最終目的として、 研究を進めています。

下記日程にて今年度第3回(通算第24回)目の研究会および会合を行いました。

[日時] 2011年7月18日(月) 13:00~17:30
[会場] 東洋文庫7階会議室(東京都文京区本駒込2-28-21)
[概要]
今回も、前回に引き続き、大河原氏の試訳に基づき、売買の第5章第5節及び第6節について検討を行った。

第5節及び第6節は、いずれも売買目的物が滅失した場合の危険負担についての規定である。契約と同時に所有権が移転するという意思主義原則(§167参照)、目的物の移転の有無、代価(代金)支払いの有無と危険の負担の調整という複雑な場面であり、逐条的な意訳ではなく、関連する制度との統一的理解が不可欠であることを再認識した。なお、日本民法の債権法改正試案では、危険負担について定める「民法534条・535条・536条1項は廃止する」とされている。

以下、何点か今回の翻訳作業で問題となった部分を確認する。

“لا شئ على المشتري” (第293条)
直訳すると「買主に課されるものは何もない」となる。ここでは、日本法における言い回しに倣い、「何らの責任も負わない」と意訳することとした。

“الغرماء” (第296条)
「債権者」とするか「破産債権者」とするか問題となったが、日本法上、破産債権者とするとその範囲が限定されるとの意見が出され、「債権者」と訳することにした。

“سوم الشراء” (第298条)
「سوم」の原義は「要求」とされ、「الشراء」が「購入」とされるので、直訳すれば「購入要求」という以上の訳にはならない。しかし、298条で問題とされているのは、商品を手にした買主がそれを滅失させた場合の責任であり、同条のテーマである「سوم الشراء」を「購入要求」と直訳すると、条文の内容に合致しなくなるおそれがある。そこで、「سوم」と「الشراء」の二つの語間をどのように埋めるかが問題となった。結論としては、「購入を前提に財物を検分(確認)することの要求」という仮訳にとどめた。

“تعد” (第298条)
「過失」、「懈怠」、「踰越」などの意見が出されたが、訳としては「踰越」を充てることにした。

文責:田崎博実(第一東京弁護士会所属 弁護士)

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