トルコ共和国におけるTezakir写本資料収集及び調査
[期間]
2009年8月18日(火)~9月30日(水)
[国名]
トルコ共和国(アタテュルク図書館、トルコ歴史協会付属図書館)
[出張者]
小笠原弘幸(東洋大学非常勤講師)
[概要]
現在、東洋文庫拠点では近代オスマン帝国の重要史料の一つであるアフメト・ジェヴデト著『覚書(Tezakir)』の翻訳を行っている。
これまで翻訳作業は、ジャヴィト・バイスンによって現代トルコ文字に転写されたテクスト(Ahmed Cevdet Paşa, Tezakir, 4 vols., ed. by Cavid Baysun, Ankara: Türk Tarih Kurumu, 1967)を利用していたが、読み合わせの作業中に、文意が不明瞭な点が散見された。そのため、転写テクストではなく、原本である写本テクストを翻訳作業の底本として用いる必要性が痛感された。そこで今回、トルコ共和国所蔵の『覚書』写本の複写を収集することとなった。
『覚書』は、著者アフメト・ジェヴデトの自筆本が、トルコ共和国のイスタンブル所在のアタテュルク図書館に所蔵されている。今回の出張の主目的は、まず本写本の複写である。
アタテュルク図書館は、報告者の留学時(2004-2006年)とはシステムが変更され、利用手続きが簡略化された。入り口でパスポートを預けるのみで、書類などに記入する必要はない。史料の電子化も進み、『覚書』も写本現物ではなくパソコンで電子化された画像を閲覧する形式であった。そのためか複写費は大幅に減額されており、一こま20クルシュであった。ただし、申請時ラマダン中であったこともあり、担当責任者がしばらく不在であり、申請から受理まで一週間以上待つこととなった。また、現金の取り扱いをしておらず(クレジットカードのみ)、図書館側では領収書を発行できない規定となっていた。
最終的には東洋文庫側で用意した書類に記入してもらうことで事なきを得たが、今後利用される方はご注意されたい。
続いて、『覚書』と関係の深い史料である、同じくアフメト・ジェヴデト著の『Maruzat』写本の複写を得るべく、アンカラのトルコ歴史協会(TTK)付属図書館に赴いた。
『Maruzat』写本は、6分冊からなっている。本図書館の複写費用は1頁(見開きではなく、片面)で1,15ドルと高額であり、予算の都合上2分冊のみの複写購入となった。
アタテュルク図書館と異なり電子化は進んでおらず、注文後に撮影開始となったため、受領まで一週間弱必要であった。『覚書』翻訳が完成した暁には、本図書館に一部献呈して欲しい、との依頼も受けた。
今回の出張により、『覚書』翻訳の必須テキストは収集できたことになる。本テキストを翻訳参加者に配布し、これまでの訳文を対照させる作業を早急に行う予定である。
なお、『覚書』翻訳に有益な『Maruzat』の残りの写本の複写収集は、今後の課題である。
(2009年10月6日更新)