「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」第5回研究会(2009/2/21)

研究班「シャリーアと近代:オスマン民法典研究会」は、オスマン民法典(メジェッレ)のアラビア語訳の講読および翻訳作成を最終目的として、研究を進めています。

下記日程にて第5回目の研究会および会合を行いました。

[日時]  2009年2月21日(土) 13:00~18:00
[会場] 東洋文庫イスラーム地域研究資料室
会場アクセス       ※東洋文庫本館とは別建物です。ご注意下さい。
[道順]駒込駅から本郷通りを六義園方面へと直進し、ampmを通過したあたりにあるビルです。 1階に日本直販が入っています。入口は、建物の右側裏手にあります。やや判りにくいので、迷われたときには事務所までご連絡下さい。
[報告]  メジェッレ翻訳案 第66条~
[概要]
092221 第5回研究会では、8名が出席し、前回に引き続き磯貝氏の試案に基づいてメジェッレ第66条から第81条までの翻訳が進められた。
第66条から第74条までは、事実認定に用いる経験則を一般化したものであり、第75条から第81条までは、事実認定における訴訟手続きを規定したものであるように見える。
この点で、メジェッレが単なる“民法”(実体法)ではなく、民事手続法も網羅した、広く“民事法”とでもいうべき性格が明らかになっているといえよう。

イスラム私法の法諺あるいは法格言を集めたと考えられる総則(第2条乃至第100条)を翻訳するにあたっては、このようなメジェッレの性格を意識する必要がある。例えば,“iqrār”(78条)についてみると、これを訴訟法上の概念としてとらえれば「自白」という訳語がもっとも適当なのであろうが、実体法上の概念では「(債務等の)承認」という訳語がもっとも適当となろう。しかし、メジェッレは、実体法のみならず,訴訟法的な側面も有しているので、これは「自白」と「(債務等の)承認」という二つの概念を包摂した「承認」という語を充てるのが妥当であろう。

個別の用語についてみると、大きな議論となったのがdalīl(68条)の意味である。これは「証拠」(わが国法では,裁判官が判断を下す根拠となる“資料”をいう。)という意味であるが、メジェッレで用いられている例を見ると、むしろ「間接事実」(わが国法では、要証事実を推認させる“事実”をいう。)と訳すべきようにも思える。
結局,研究会では、暫定的に、両者を併せる上位概念として「徴標」なる語を用いた。メジェッレにおけるdalīlの用法は、メジェッレにおける証拠概念を反映するものである可能性があり、メジェッレにおける証拠法が研究されれば、より適切な訳語が見つかるものと思われる。このほか今後の議論の余地を残す語としては,aṣlとfarʻがあった(ともに81条)。
次回研究会については、今回と同様に、磯貝氏の試案に基づき、82条以下の翻訳を行うこととされた。

文責 田﨑博実(弁護士)

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