東洋文庫拠点連携国際シンポジウム「近世アーカイブズの多国間比較」 (2007/12/14-12/15)

■東洋文庫拠点連携国際シンポジウム「近世アーカイブズの多国間比較」 (2007/12/14-12/15)

[主催] 国文学研究資料館(アーカイブズ研究系「東アジアを中心としたアーカイブズ資源研究」プロジェクト)、日本学術振興会科学研究費補助金・基盤A「歴史的アーカイブズの多国間比較に関する研究」、日本アーカイブズ学会
[助成] NIHU研究プログラム・イスラーム地域研究東洋文庫拠点
[後援] 立教大学
[日時] 2007年12月14日(金)~15日(土)
[場所] 立教大学

[プログラム]
12月14日(金)13:00-17:30 於 立教大学太刀川記念館3階ホール趣旨説明  渡辺浩一(国文学研究資料館)

セッション1「近世アーカイブズをめぐる統治と社会」 司会:臼井佐知子(東京外国語大学)
オゼル・エルゲンチ(ビルケント大学)、ヒュリヤ・タシュ(アンカラ大学)
「オスマン国家官僚における文書作成―時期区分、組織化の展開、文書類の多様化および大量化―」
加藤基嗣(一橋大学大学院生)「清朝行政文書の作成と管理について」
オリヴィエ・ポンセ(フランス国立古文書学校)「近世フランス王権によるアーカイブズの構築と利用(15-18世紀)」
高橋実(国文学研究資料館)「日本近世社会の特質と文書の作成・管理について」

12月15日(土)9:30-17:00 於 立教大学8号館3階8303教室

セッション2「実践される近世アーカイブズ」 司会:高橋一樹(国立歴史民俗博物館)
ヴァネッサ・ハーディング(ロンドン大学)「近世イングランドと書かれ印刷される言葉」
大友一雄(国文学研究資料館) 「幕府勤役と情報伝達―役人交代から記録管理を考える―」
金炫栄(韓国国史編纂委員会)「文書・記録と‘休紙’:朝鮮後期文書の伝存様相」
王振忠(復旦大学)「村落文書と村落志―徽州歙県西渓南を例として―」

全体討論

[概要]
本シンポジウムは、平成16年度から4年間にわたって実施されてきた科研費基盤研究(A)「歴史的アーカイブズの多国間比較に関する研究」の総括研究集会であり、今回は日本アーカイブズ学会の共催をえて、日本史、朝鮮史、中国史、ヨーロッパ史、イスラーム史などの研究者が参加した。
アーカイブズ学の立場から記録史料(文書)の出所の多国間比較を行い、日本の歴史アーカイブズの特質を浮かび上がらせるとの趣旨説明の後に、セッションに移った。

セッション1「近世アーカイブズをめぐる統治と社会」は、アーカイブズの作成と管理をめぐる、中央政府や地方行政組織と社会組織(村落や都市)との動態的な関係について、近世のオスマン朝・清朝・フランス・日本という四つの地域の事例からそれぞれ報告された。

イスラーム地域については、オスマン朝に関してオゼル・エルゲンチ&ヒュルヤ・タシュの両氏が共同で文書作成・管理者の組織化の展開と文書の増加と多様化の問題を社会との合意及び妥協という視点から報告を行った。

セッション2.「実践される近世アーカイブズ」では、人間の活動がどのようにアーカイブズとして現れるかという問題を、近世のイングランド(書くこと)・日本(幕府組織による情報の継承)・朝鮮(実録編纂の過程)・清朝(地方志の編纂と継承)について報告し、多元的比較を行うことを意図した。

全体討論に先立ち、オスマン史の林佳世子(東京外国語大学、東洋文庫研究員)氏は、コメンテイターとして“私人の作成した文書に国家が関わることがあるか”効力を失ったのちも文書を保管する目的はなにか?近代との連続面と不連続面、について考察する必要を提起した。

三浦徹(TBIAS代表)は、全体討論の司会をつとめ、つぎのような問題提起を行った。

「計5回のワークショップを通じて、水平的/垂直的、国家的/地方的/私的、実用的/非実用的、などさまざま文書類型があることが確認されたが、比較の方法の問題として、ある類型の文書が不在の地域でも、代替の役割をもつ文書類型が存在しないか、それを検討することで、二分法的な比較論を越えることができる、書かれたもの全てがアーカイブズではなく、保存される必要があるものがアーカイブズではないか。何のための記録・保存であるかを問うことで、現代のアーカイブズと前近代のアーカイブズとをつなぐ論点や研究が可能になるのではないか」

最後に科研代表者渡辺浩一氏(TBIAS研究分担者でもある)は、成果と課題として、統治の組織化とともに民間文書の多様化の趨勢が明らかになったことは大きな成果であるが、さらに全体の構造を明らかにしていく必要があること、また「前近代文書」が近現代史のなかでどのような位置をとるのか、これを通じて近代アーカイブズを射程にいれていきたい、と結んだ。

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