第23回「近代中央ユーラシア比較法制度史研究会」(2024/12/21)報告

第23回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、科研費(基盤研究(B))「ロシア帝国領中央ユーラシアにおける家族と家産継承」(研究代表者:磯貝健一)により開催されました。その実施報告を掲載します。

 

【概要】

2024年12月21日(土)に、第23回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会が、千葉大学西千葉キャンパスでの対面とオンライン(Zoomミーティング)を併用したハイブリッド形式で開催された。13:45~15:45には「トルキスタン統治規程」研究会、16:10~18:00には矢島洋一氏(奈良女子大学研究院人文科学系)による研究報告が行われた。対面参加者は9名、オンライン参加者は7名であった。

前半の「トルキスタン統治規程」研究会では、第30条から第33条までの訳文検討が行われた。今回で第1編第2章第2部までの確認が終わり、次回から第3部へと入っていくこととなる。

後半は、矢島洋一氏により「トルキスタン地方の法廷史料における非ムスリム」と題する研究報告がなされた。こちらの報告は、ロシア統治期の中央アジアにおけるイスラーム法廷とロシア法廷との関係という矢島氏の問題関心にもとづき、今回は「現地ムスリム」と「ロシア人」の二分法を超えて当該時期の法制度をより複眼的に理解すべく、当時のトルキスタン地方の法廷資料によく現れる(ロシア人以外の)非ムスリムに着目する趣旨のものであった。

 

サマルカンドの民衆法廷の法廷台帳から抜粋し、矢島氏による書きおこしと日本語訳という形で、それぞれユダヤ人、アルメニア人、インド人の関わった事例が順に紹介された。特に、このような非ムスリム関係案件の台帳には、しばしば本人署名として証人名や受取りサインにアラビア文字以外の文字が使われることが指摘され、各々の事例でもヘブライ文字やアルメニア文字、フダーバーディー文字の書き込みがある点に注意が払われた。後半には、非ムスリムの法的な扱いを探るべくトルキスタン統治規程などを参照することで検討がなされた。統治規程では彼らの位置づけは明確にされていないが、1898年の法改正により部分的に明記されるところもあったという。最後に今後検討されていくべき課題として、判決の傾向や、ロシア法廷における非ムスリムの扱いが挙げられた。

質疑応答では、まず非アラビア文字の署名に関する質問が続いたあと、トルキスタンの非ムスリムの地位についてや、帝国内のほかの法制、たとえば帝国西部地域のユダヤ人によるラビ法廷などとの関係性にかんしてなど、ロシア帝国論との関連が強い論点が多く出された。また最後には磯貝健一氏により補足的な説明がなされた。磯貝氏は、アルメニア人による「サマルカンドのカーディーに委ねる」との文言が見られるサマルカンドの法廷資料があるとして紹介し、このようにトルキスタンの非ムスリムが民衆法廷の管轄に入りシャリーアに依って裁かれていたことには、法的な合意関係があったのではないかと論じた。

なお、11:30~12:30に行われた研究打ち合わせ会議には9名が出席し、科研費による今年度の活動について情報が共有され、今後実施するセミナーや研究会の内容なども決定された。

(文責:椎名旺快・北海道大学大学院文学院修士課程)

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