東洋文庫拠点共催研究会 ファルザリエフ氏講演会 (2009/02/24)

イスラーム地域研究・東洋文庫拠点は、東北大学東北アジア研究センターとの共催で、アゼルバイジャンからシャーヒン・ファルザリエフ氏(アゼルバイジャン科学アカデミー歴史研究所翻訳センター長、兼バクー国立大学教授)をお招きして、研究会を開催いたしました。

Exif_JPEG_PICTURE[日時]  2009年2月24日(火) 15:00-17:00
[会場] 早稲田大学41-31号館2階会議室 >>会場アクセス
[講演] 20世紀におけるアゼルバイジャンの歴史学:歴史的経験と現代的状況
Azerbaijan Historiography in the 20th Century: Historical Experience and Contemporary Situation

[報告者]   シャーヒン・ファルザリエフ氏(Shahin Farzaliyev)

(アゼルバイジャン科学アカデミー歴史研究所翻訳センター長、兼バクー国立大学教授)
[使用言語]  ロシア語(日本語通訳つき)

Exif_JPEG_PICTURE[概要]
シャーヒン・ファルザリエフ氏は、サファヴィー朝史をご専門とされているが、ペルシア語通訳としてもアフガニスタンでの豊富な経験を有し、またアゼルバイジャン語による句集を出版されるなど(近年、歌集も出版予定)、多分野で才能を発揮されている知識人である。今回は、20世紀アゼルバイジャンにおける歴史学の変遷について論じ、20名の出席者の質疑に応えた。
アゼルバイジャン史の全体の時代区分についてはどこで区分すべきかの議論が続いておりいまだ結論は出ていない。今回は以下の区分に応じて20世紀のアゼルバイジャン史歴史学の概容が述べられた。

1. 19世紀-1918年
2. アゼルバイジャン民主主義共和国時代(1918-1920年)
1918年5月28日にイスラーム圏初の共和国として成立し、1920年の4月27日まで存続したアゼルバイジャン民主共和国は短命ながらもその後の国民意識に大きな影響を与えたといえる。当時の政権に関わった政治家の著作も多く出版されているが、そのほとんどはソ連崩壊後の出版である。M.Rasulzade, A. Topchubashovの著書がこれにあたるが、国民国家イデオロギーの宣伝色が強い内容といえる。
3. ソヴィエト政権時代(1920-1985)
3-1 : 1920-1940年
20-30年代のアゼルバイジャンの歴史学を知るには、同時代に執筆されたN.Narimanov, A.Qarayevの著書や論文またかれらの活躍に関する資料を研究する必要がある。アゼルバイジャン人民委員部で首班を勤めたN.Narimanovはこの時期で最も研究されている人物でもあり、F.Kocherli, V. Agasiyev, D.Quliyevなどによる研究がある。
3-2 : 1941-1945年(独対ソ連戦争)
ソ連時代では、アゼルバイジャン人の研究者によって最も多くの研究が残されている時期にあたる。A.Agayev, C.Cafarov, Y.Tokarjevskiなどの研究があるが、ソヴィエト政権賛美の傾向が強く、学術的な評価は高いとはいえない。
3-3 : 1946-1985年
この時代は社会の変容に応じてさらに幾つかに区分でき、なかでもコミュニズム社会製造の時代の一部に位置づけられる70-80年代前半はソ連時代でも最も複雑な時期といえる。この時期の歴史研究では、Y.Yusifov, F.Maniyev, S. Muradov, F.Abbasov, Y.Qasimov, T.Qaffarovなどによって農民や農業についての研究が残されているが、この時期については今後再研究が必要と考えられる。
4. ソ連崩壊後(1985-)
1985年のペレストロイカは、歴史学に新しい見地をもたらした。当初はアゼルバイジャンでは依然としてコミュニストの視座に立った歴史研究が続けられていたが、ソ連の崩壊が進み、また88年にはナゴルノ・カラバフ自治共和国問題が発生するなど政治・経済・社会が大きく変動していく中で、従来の政体に対して批判的な研究や講義が行われるようになった。
1988-1991年はアゼルバイジャン独立運動がはじまり独立を宣言した時期で、この時代に研究者たちは二つの派に分かれた。一方はコミュニストの視点から物事を分析する派であり、他方はアゼルバイジャン独立運動の影響のもと、民族主義の視点から物事を分析する派である。

 ファルザリエフ氏はソヴィエト政権下の70年間を客観的な歴史研究が妨げられた時期であったと述べ、アゼルバイジャンの20世紀を冷静に分析し、研究を進めていくにはまだ時間が必要であると論じた。

 講演後の質疑応答では、アゼルバイジャンの時代区分の問題、またイラン、トルコのアゼルバイジャン系に対する意識や歴史の客観性の問題等々、多彩なテーマに関する質問が寄せられた。当意即妙に文人の言を引きながらあらゆる質問に回答を述べるファルザリエフ氏の学識・教養の深さに感銘を受けつつ、和やかに盛り上がり実り多い講演会となった。

文責 柳谷あゆみ(人間文化研究機構/東洋文庫)

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