Bilad al-Sham(歴史的シリア)国際会議参加及び史料調査
[期間]
2006年9月1日~9月13日
[国名]
シリア、ヨルダン
[出張者]
大河原知樹(東北大学/東洋文庫)
[概要]
2006年9月1日~9月13日の日程で、シリア及びヨルダンへの出張を行った。
出張の目的は、Bilad al-Sham(歴史的シリア)国際会議参加、及び史料調査であった。
以下、出張の成果を国別に簡単に記載する。
シリアでは、フランス近東研究所、ダマスカス歴史文書館、及び国立アサド図書館を訪問した。フランス近東研究所は、シリア所在の外国系研究所としては、長い歴史と規模を誇り、特に貴重なイスラーム地域研究史資料を所蔵するほか、イスラーム史料学に関する研究蓄積がある。図書館に収蔵されている刊本、雑誌を調査し、研究所所属の研究員からレヴューを行った。
ダマスカス歴史文書館では、イスラーム法廷史料のコレクションを閲覧し、その活動について館長にインタヴューを行った。国立アサド図書館でも、同様に史料調査を実施した。
ヨルダンでは、9月10日から14日にかけて開催されたBilad al-Sham(歴史的シリア)国際会議に出席した。これは1974年以来ヨルダン、シリア共催で実施されている歴史ある国際会議であり、今回で第7回となる。「アラブ・イスラームによる征服から20世紀終了時までの歴史的シリアにおけるワクフ」の題で、ヨルダン、シリアはもとより、レバノン、パレスチナ、エジプト、イラク、サウジアラビアなどのアラブ諸国、トルコ、アメリカ、フランス、ドイツ、スイスからのワクフ研究者、総勢90余名が一同に会して行われた。
中東関係では最大規模に数えられるであろうこの国際会議では、ワクフというイスラーム特有の寄進制度が歴史的シリアに果たした、あるいは現に果たしている役割を、さまざまな時代、地域の研究者がさまざまな角度から検討し、セッション毎に活発な討論が実施された。ただし、発表者の報告、出席者の関心が多岐にわたるため、意見のかみ合った討論に必ずしもならないセッションも存在し、全体としてやや大味な会議となった印象は拭えなかった。
また、開催地がヨルダンという点で、イスラエルの研究者が一人も参加していなかった。とは言うものの、良質の発表も多く、例えば、ワクフ文書等の史料の精読・調査だけではなく、実際のワクフ対象物件の現状をフィールド調査し、スライドや図面を用いて国の政策などマクロの観点からワクフを論じた良質の発表やワクフに関する法理論や用語を実際の文書から批判的に検討する発表などがあった。
また現地の研究者を中心に研究の問題点などを具体的に伺うことができ、非常に有意義な時間を過ごすことができた。印象的だったのは、年々劣化していく文書や施設の補修・維持についてのエルサレム・イスラーム博物館研究者の発言である。このような分野では、紙の補修の技術に優れる日本が貢献できる余地があるのではないか、との感想も抱いた。この会議で意見交換をした研究者と連絡をとりあい、イスラーム地域研究プロジェクトを進めることが次の課題となろう。
(2006年9月17日更新)