第8回「オスマン帝国史料の総合的研究」研究会(2011/3/9)

研究班「オスマン帝国史料の総合的研究」では、末期オスマン帝国の歴史家・法律家アフメト・ジェヴデト・パシャによる『覚書 (Tezakir)』の講読および翻訳作成を最終目的として、研究を進めています。

下記日程にて第8回研究会をいました。

第8回研究会
[日時] 2011年3月9日(水) 13:30~17:30
[会場] 東洋文庫七階第一会議室
[テキスト]ジェヴデト・パシャ『覚書 (Tezakir)』第1巻、45頁~
[翻訳担当者]吉田達矢、秋葉淳
[概要]
2011年3月9日、改装されたばかりの東洋文庫において、第8回目となる『覚書(Tezakir)』研究会が開催された。前回は2009年6月であるので、およそ1年9ヶ月ぶりの開催である。その間、参加者の一人である小笠原弘幸氏によって、『覚書』の手稿本の電子画像が各参加者に配布されていた。これによって、C.バイスン氏による転写を大いに参照しつつも、原史料に基づいて訳出することが可能になり、本研究の史料的厳密性は著しく高められた。

さて、7名の参加者を得た今回の研究会においては、まず、本研究会の今後の方針が話し合われた。その結果、①『覚書』は、さしあたり「覚書10」(転写本89頁)までを訳すこと、②訳出の作業は従来通り各参加者によって行われるが、最終的には編者3名程度(未定)によって訳語の統一などがなされること、③東京大学東洋文化研究所との共催による研究会を企画すること、④2011年度から新たに「オスマン帝国史史料解題」を作成し公開すること、などが決定された。このうち、とくに④については、文献資料の収集を最重要の任務とする東洋文庫において開催されている本研究会が、今後是非とも取り組むべき活動であるとして、多くの賛同を得た。

次に、『覚書』の手稿本と転写との校合が、これまでの翻訳担当者によってなされた。バイスン氏の転写は概ね正確であると言えるが、それでもなおいくつかの誤謬が訂正された。とくに今回翻訳された箇所においては、誤記がやや多いことが指摘された。

こうした準備作業を経て、まず吉田達矢氏の担当分のうち前回検討できなかった箇所(転写本45頁)が、参加者全員によって吟味された。そこでは、クリミア戦争当時の閣僚たちは、戦争中にもかかわらず権力闘争に明け暮れていたが、ムスリムの兵士は「比類なき兵」として列強からも認められていたことなどが述べられていた。

続いて、秋葉淳氏による翻訳が検討された(同46-49頁)。この部分は、その多くが、チュニス総督の死去とその後任人事に関するものであり、イスタンブル政府は現地で選出された総督を追認したことが記されていた。ここで引用されていた「後任のチュニス総督から大宰相への報告書」(同48-49頁)は、アラビア語からトルコ語に訳されたものをさらに日本語に訳するということもあり、難解を極めたが、秋葉氏によって正確かつ読みやすい日本語に訳出されたことは、本日の最大の成果と言えよう。

秋葉氏が担当された部分は、直接話法による君主の発言の再現や、位階は高いが学識のないウラマーに対する皮肉など、記された内容と同等かそれ以上に興味深い箇所が多く見られた。実のところ、直接話法の部分は、研究会当日においても訳語の選択に多少の時間を要したが、君主と臣下のやりとりが目に浮かぶような描写は、訳し甲斐のある面白い部分でもある。こうした叙述は今後も散見されるので、参加者全員と楽しみながら訳稿を完成させたいと考えている。

文責:長谷部圭彦(日本学術振興会特別研究員/明治大学)

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