イスラーム地域研究 現地語資料の探し方(2015年版)

検索の手順

では、実際の検索方法に進みましょう。NACSIS-CAT 上のデータを検索するには、NII が提供する検索システムである、CiNii Books(サイニイ・ブックス、http://ci.nii.ac.jp/books/)や、 Webcat Plus(http://webcatplus.nii.ac.jp/)を使います(1)国立国会図書館の「国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)」(http://iss.ndl.go.jp/ )や、カーリルといった外部のサービスでもNACSIS-CAT上のデータを検索することができますが、検索方法は異なります。。Webcat Plusは、連想検索や、古書検索へのリンクなど便利な機能がありますが、高い精度で現地語資料を探すには、CiNii Booksが向いています。

さて、図書館所蔵資料を探す際にまず考慮に入れなければならないのは、CiNii Books や OPAC を使って私たちが検索できるのは、資料(本)そのものではなく、資料から一定のルールに従って情報を転記した書誌レコードだということです。書誌レコードとは、いわば一昔前に図書館で使われていた目録カードのようなものです。ここに記載される書誌情報(下図参照)は限られていますので、資料に記載されていても書誌レコードに記録されない情報、例えば本文中の一節や、表紙の色やデザイン、帯に記載された情報などで検索することはできません。また、ページ数や挿図の有無といった情報のように、書誌レコードに記述されていても、検索対象になっていない情報では検索することはできません。

 

検索結果の例

一般的なOPACで表示される書誌情報の例(イスラーム地域研究資料室OPACより)

 

また、書誌は人間が作成するものですから、間違いがないとは限りませんので、正しいキーワードで検索しても、書誌の記述が間違っていればそれを見つけることはできません。更に、ある資料を機関が所蔵していても、何らかの事情で NACSIS-CAT に所蔵情報を登録していないことがあります。このようなことが理由で、探したい資料のタイトルや著者名が分かっていても、簡単に見つけることができるとは限らないのです。

また、資料を書誌情報に置き換えて登録するには様々な規則があります。詳細は省略しますが、洋書の書誌データをNACSIS-CAT上に登録するためには、目録規則(『英米目録規則』第2版)、コーディングマニュアルに従う必要があり、また、アラビア文字などをローマ字に置き換えるためには、ALA-LC Romanization Tables という翻字規則が用いられており、それらの規則を把握していないとうまく検索できないこともあります。

とはいえ、それらの規則を全部覚えてから検索に臨むというのは現実的な方法とは言えません。多くの人は実際に検索をする中でコツを覚えていくと思われますが、必ずしも正しく検索できているとは限りません。探しても見つからない資料が本当に存在しないのか、それとも検索方法が間違っているから見つからないのか、それを確実に知ることは実は難しいのですが、できる限り検索漏れをなくすために、以下のやり方を参考に検索方法を確認して下さい。

まずは ISBN/ISSN で検索

もし、探したい資料の ISBN(図書)や ISSN(雑誌)が分かっているなら、CiNii Books の「ISBN」や「ISSN」のフィールドにそれを入力して検索するのが手っ取り早い方法です。ここではISBN/ISSN は間にハイフンを入れても入れなくても構いません。ISBNには13桁のものと10桁のものがありますが、CiNii Booksではどちらを入れても検索できるようになっています。

ISBN/ISSN で検索してヒットしなかったからといって、その資料が存在しないと考えてはいけません。版元やオンライン書店などのウェブ上のデータでは ISBN が書かれていても、NACSIS-CAT上に書誌が作られた当時は ISBN がなかったために書誌に記録されていないということがあります。また、洋書ではペーパーバック版とハードカバー版で別の ISBN を持つ場合がありますので、ISBN 以外のキーワードでも必ず検索して下さい。

タイトル・著者名・出版者はローマ字とアラビア文字両方で検索する

ISBN/ISSN で検索して見つからなかったら、次はタイトルや著者名などで検索します。かつては、アラビア語のタイトルや著者名はローマ字に直して検索しなければなりませんでしたが、NACSIS-CATでは2003年からアラビア文字での目録作成・検索の運用を開始しました。現行の規則では、タイトルと責任表示、出版地・出版者、シリーズ名、内容注記、別タイトルはアラビア文字で記録し、タイトルについてはローマ字翻字形を併記しています。

従って、

タイトル:アラビア文字、ローマ字

著者名:アラビア文字、一部ローマ字(2)著者名典拠レコードの標目形がローマ字のため

シリーズ名:アラビア文字、ローマ字

出版情報:アラビア文字のみ

で検索することができます。

ただし、一部の古い書誌レコードでは、出版情報が翻字形のままになっていることがあります。従って、念入りに検索を行うには、殆どの要素をアラビア文字とローマ字で検索する必要があります。

件名・分類などは補助的に使う

CiNii Booksでは、「フリーワード」という検索フィールドが設けられています。ここに検索語を入力すると、タイトル、著者名、出版者などを一度に検索することができます。

【件名】

このほかに、「件名」というフィールドにもローマ字の検索語を入力して検索することができます。件名とは、資料の主題や形式を表すキーワードのようなものです。多くの場合、和書の件名は基本件名標目表(日本語)、洋書の件名は Library of Congress Subject Headings(LCSH、英語)に従って入力されるので、アラビア文字ではなく、英語のキーワードで検索します。注意すべきは、件名には統制語彙といって、表記の揺れをなくすために予め統一された語が用いられます。例えばイブン・スィーナーという人名件名は、LCSHではAvicennaとなっていますので、Ibn Sinaと入力したときとでは、検索結果に大きな違いがあります。

【分類記号】

図書を主題の分類で検索するには、分類記号を知る必要がありますが、分類法には日本十進分類法(NDC)やデューイ十進分類表(DDC)などがあり、書誌によってどの分類表に基づいて分類記号が記載されているかは定かではありません。

とはいえ、多くの図書館では、請求記号(簡単に言えば、図書のラベルに書かれた記号)にNDCに準ずる記号を用いています。そのため、NDCの分類記号を簡単に覚えておくと、直に書架を眺めて本を探す時に役立ちます。ここでは日本十進分類法 9 版(NDC9)を例に、イスラーム地域研究に関係しそうな分類記号を挙げておきます。NDC は 3 桁+小数からなる分類記号を用います。OPACやCiNii Booksにおいて、小数点以下の違いを考慮せずに検索したい場合は、アスタリスクを用いて前方一致検索にすると良いでしょう。

1類(哲学、心理学、宗教)

129.7 アラビア近代哲学
132.28 アラビア中世哲学
167* 「イスラム教」

167.1 教義・神学
167.2 イスラム史
167.28 マホメット
167.3 教典:コーラン
167.4 信仰録.説教集
167.5 寺院
167.6 勤行:告白、祈禱、喜捨、断食、巡礼、戒律
167.7 布教.伝道
167.8 教派:スンニ派、シーア派

2類(歴史、地理、伝記)

224* インドネシアの歴史
225.7 パキスタンの歴史
227* 西南アジア・中東の歴史
229.6 中央アジアの歴史

229.61 カザフスタンの歴史

229.7 コーカサスの歴史
229.9 グルジアの歴史
242* エジプトの歴史
243.1 リビアの歴史
243.2 チュニジアの歴史
292.7* 西南アジア・中東の地理・地誌・紀行
299.45 ペルシア湾(海洋)

3類(社会科学)

312.27* 西南アジア・中東の政治史・事情
322.28 イスラム法
332.27* 西南アジア・中東の経済史・事情・経済体制

4類(自然科学、医学、薬学)

402.27* 西南アジア・中東の科学史・事情
449.33 イスラム暦

5類(技術・工学)

522.7 西南アジア・中東の建築

6類(産業)

689.227 西南アジア・中東の観光事業史・事情

7類(芸術、美術)

702.096 イスラム芸術
762.27 西南アジア・中東の音楽
778.227 西南アジア・中東の映画史・事情

8類(言語)

829.57 トルコ語
829.76 アラビア語
829.93 ペルシア語

9類(文学)

929.57 トルコ文学
929.76 アラビア文学
929.93 ペルシア文学

注意すべきことは、書誌に件名や分類記号が記録されていなければ検索することはできませんし、実際、分類記号や件名が付された書誌はとても少ないということです。件名や分類での検索は、現段階では補助的なものと考えて下さい。

 

1 国立国会図書館の「国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)」(http://iss.ndl.go.jp/ )や、カーリルといった外部のサービスでもNACSIS-CAT上のデータを検索することができますが、検索方法は異なります。
2 著者名典拠レコードの標目形がローマ字のため

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